第23話

突然レイラさんの家に呼ばれた僕は今、彼女の手料理を黙々と食べている。

わざわざ手料理を食べさせる為だけに呼んだ……なんて訳無いよな。

見せたい物があるって言ってたし、一体なんだろう……と思いつつ、僕はレイラさんの手料理を完食した。


「ご馳走様でした。」


「私の料理美味しかった?」


「はい。美味しかったです。」


「ホント?良かった〜!」


僕がレイラさんの料理を美味しかったと言うと、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて喜んだ。

さて、食事も食べ終えた事だし、本題に入るとするか。


「で、僕を呼んだ理由ってなんですか?見せたい物があるんですよね?それは一体……?」


「あ、そうだった!あれを見せる為にキュート君を呼んだんだった。えへへ。」


わ、忘れてた……?いやまさかそんな訳……。


「キュート君、以前私にニッパーを作ってってお願いしたよね?」


「はい。」


「ジャーン!」


レイラさんはおもむろにそう言ってズボンのポケットからあるものを取り出す。

こ、これは……ニッパー?でも……なんか青く輝いてるけど……何で作ったのこれ!?


「これ……ニッパーですよね?」


「そう!私はニッパーを作った時、鉄を溶かして金型に流し込んで、それを固めてニッパーにしたんだけど、ふと思いついたの!鉄よりも硬い素材でニッパーを作ったら、凄く頑丈なニッパーができるんじゃないかって!この世界には、聖青石(せいせいせき)って言うダイヤモンドと同等の硬度の鉱石があるんだけど、その鉱石を使ったんだ!」


「な、なるほど……。」


目を輝かせながら青く光るニッパーについて説明するレイラさん。それに対して僕はそう返すしかなかった。

聖青石……僕がいた世界には無い鉱石……だよな?と僕が考えていると、レイラさんは立ち上がってキッチンに向かいつつ、僕にこう話す。


「聖青石の名前を聞いてもピンと来てない様子だね……君がいた世界には無い鉱石なのかな?」


「は、はい……。」


そしてレイラさんはキッチンから酒瓶とグラスを持ってきた……その蓋を開けてグラスにお酒を注ぎ、それをグビッと1口で飲み干す。


「ふぅー……この鉱石はね、国内だと危険なモンスターがうじゃうじゃ生息してる「ヴァルキャン山脈」って言う所でしか取れない貴重な鉱石でー……大気中の微細な魔力を取り込む事で青く輝くと言う特徴で……手にした者に幸福を招くと言い伝えられている鉱石なんだー……その鉱石で私はニッパーを作ったって訳。」


ひ、一口で酔いが回ってる……でも長ゼリフを噛まずに言えてる……。

さ、さらに酒をグラスに注いで飲んでる……これ以上酔ったら……!


「そ、そんな貴重な鉱石をニッパーに使って良いんですか……?」


「なぁ〜に言ってるの?ニッパーがあればね、プラモデルを作る事ができるんでしょ?作るって事はね、楽しい事なんだよ!人はこの時代に至るまでに様々な価値観、宗教、人種の違いから幾度に渡り戦争を引き起こしてきた……その過程でどれだけの物が人の手で破壊されてきた事か……。


だけど人は壊すだけじゃなく、作る事もできる生き物なんだよ!便利な物を!美しい物を!素晴らしい物を作れるのはモンスターや動物にはできない人間の特権!そう私はそう信じてる!私は人間じゃなくて亜人、ドワーフだけど。君もそう思うでしょ?物作りを生業とする者として!」


「は、はい……。」


レ、レイラさんはアレだな……お酒が好きだけどお酒に弱いタイプの人だな。親戚のおじさんがそうだったからなんとなく分かる。


「おっと失礼、ちょっと暑くなり過ぎちゃった〜……。」


「レ、レイラさんってそんな事考えながらお仕事してたんですね……尊敬します。僕に見せたかった物って、このニッパーなんですか?」


「ん〜、そうだよ。見せるだけの予定だったけど……これを君にやる!」


「え……?」


え、え?この凄いニッパーを僕に……!?酒に酔った勢いでこんな……受け取っても良いのか!?そもそも僕なんかがこんな凄い物持ってて良い訳……。


「す、すみま……」


「断るのはダメー!」


えー……キャンセル返し(今思いついた造語)されちゃったよ。


「君はこの国にプラモデルを広めてくれた!子供達はもちろんの事、大人達もプラモデルに夢中になってる!それは全部君のお陰なんだよ!だからこのニッパーは君が持つのが相応しい!ほら受け取って!」


「あぁ、でも……。」


レイラさんは僕の手を取って、無理やり聖青石のニッパーを僕に握らせてくる。


「返品不可だよ!これは君の物なの!分かった!?」


「……はい。」


結局僕はレイラさんから聖青石のニッパーを受け取る事になった。

でも……この世界でプラモデルが人気になったのは僕のお陰か……誰かに感謝されるって、気持ちが良くなるものなんだな。


「よくぞ受け取ってくれた!物作りは楽しむ気持ちが大事だ!だから……だ……から……」


そう言いかけたレイラさんは、意識を失うかのようにして机に頭を横にした。

え……レイラさん……寝た?


「レイラさん……?レイラさーん……?」


「すぅ……すぅ……」


ね、寝てる……酒を飲んで酔っ払った末に眠りこける……まるで僕の親戚のおじさんだ……たまに家に来て僕にお小遣いをくれるおじさん……僕は異世界で、貴方の様な人を介抱する事になりそうです……!



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