第19話

「ジャーン!見ろよこれ!」


「なんですかこれ……エアガン?」


プラモデル同好会の先輩、坂東徳(ばんどうとく)先輩(苗字が坂東で名前が徳)。

その日彼は僕にエアガンを買ったと言って、それを僕に見せてきた。


「貯めてた小遣いで昨日買ったんだよ。」


「そう言えば坂東先輩、銃好きって言ってましたよね。」


「バン!」


「うわぁ!……あれ?」


「ははっ!弾は入ってねぇよ!俺ガンアクション映画が好きでさ、こういうのが好きなのよね!エアガンだけじゃなく、モデルガンも集めてるぜ!」


「そうなんですね。」


坂東徳先輩は、いつも無邪気な笑顔でエアガンやモデルガンの素晴らしさを説いていた。

それだけでなく、プラモデル同好会の先輩と言うだけあって、プラモデルを嗜む事も忘れていない。

高校に入って初めてプラモデルの塗装を始めた僕に、上手く塗装する方法も教えてくれた優しい先輩だ。



その時の記憶に助けられる事になるとはこの時までは思いもしなかった。

僕はプラスチックマスターで、先輩が僕に見せてくれたエアガンを作り、その銃口をフレイムドラゴンに向けた。


「狙い撃つぜ!」


僕はそう呟き、フレイムドラゴンに銃弾を打ち込む。


「グォォォ……!!」


銃弾はフレイムドラゴンの目元に直撃し、それを食らった相手は怯んで動きを止めた。

プラスチックの弾丸が竜なんてものに通用するかは分からなかったけど、通用するならこっちのものだ!


「なんだあの武器は……!」


「まさか……銃……!?」


地面に倒れている冒険者と思しき男性2人は銃を見て驚いている。

銃の名前は知ってるみたいだけど、この世界にも銃はあるのか……。


「キュート君!フレイムドラゴンの瞳をその銃で攻撃して、10秒程足止めできないか?」


「やってみます!」


リサエルさんは僕にそう指示を出し、僕は彼女の言う通り、フレイムドラゴンの目を狙った。

かなり小さな的だけど、当ててみせる!


パン!パン!


僕はフレイムドラゴンの顔目掛けて何発も銃弾を打ち込む。

当たれ、当たれと願いつつ銃の引き金を引き続け、6発目の弾丸がついに竜の瞳に直撃した。


「グォォォ!!」


「今だ!私の腰のポーチに携えている、瓶に入った黄色い液体を私に飲ませてくれ!」


「は、はい!」


フレイムドラゴンが怯んだのを見て、リサエルさんは、自分の腰に携えた瓶の中の黄色い液体を自分に飲ませろと僕に指示を出す。


彼女の言う通り、僕はリサエルさんの腰のポーチをあさって黄色い液体が入った瓶を取り出し、開かれたリサエルさんの口に黄色い液体を注ぎ込む。

きっとフレイムドラゴンの拘束スキルを解除してくれる効果を持つポーション的なものなんだろう。


そう考えながらリサエルさんに黄色い液体を全てリサエルさんに飲ませると、彼女の身体にまとわりついていた鎖が弾け飛び、彼女は自由になった。


「ありがとう!後は私に任せろ……!」


「リサエルさん……。」


「グォォォォォォォ!!」


その時、リサエルさんが自由になったのと同じタイミングで竜も怒りの咆哮をあげ、戦闘態勢に入った。

リサエルさんは剣を構えて竜に立ちはだかる。互いに見つめ合うリサエルさんとフレイムドラゴン。


「コォォォォォ……!」


「エルフィンスラッシュ……。」


竜は息を吸って先程のように炎のブレスを吐くつもりだろう。

それに対してリサエルさんは剣を両手で握って身構える。


「ゴァァァァァ!!」


「ファーストフォーミュラ!!」


勢いよく口から炎のブレスを吐く竜。

それをリサエルさんは剣を勢いよく振りかぶってなぎ払い、その斬撃で竜の喉元を切り裂いてみせた。

あれがリサエルさんの必殺技、エルフィンスラッシュ・ファーストフォーミュラか……と僕は思いつつ、首から血を吹き出して力尽き、地面に倒れ伏す竜の最期を見届けた。


「キュート君、何故戦場に来た?」


「えっと……リサエルさんの戦いを生で見たくて……。」


「そんな事の為に自分の命を危険に晒したのか?」


「……すみませんでした……。」


そうだ、僕は興味本位で戦場に来て、リサエルさんの足を引っ張ったんだ。彼女に怒られるのも当然の事だ。


「まぁ私も助けられたし、今回は大目に見てやろう。」


「……はい。」


リサエルさんはそう言ってるけど、そもそも僕がここに来なければリサエルさんはピンチにならなかった訳で……もうこんな事は止めようと、僕は誓うのだった。


「悪いリサエル、俺達の拘束も早く解いてくれねぇか?」


「すまない。今解く。」


リサエルさんはそう言って、未だ拘束されている仲間2人の拘束をスキルで解除し、2人の仲間を自由な状態にした。

リサエルさんは、いつもこんな命懸けの仕事をしているのかな……だとしたらとても大変そうだ。

僕はリサエルさんの事が心配になった。


「今解体師の元に精霊を飛ばした。すぐに来るだろう。フレイムドラゴンを解体してもらい、希少な部位は売却する。それでいいな?」


「はい!」


「それにしても街中にフレイムドラゴンが入ってくるなんてな……結界が老朽化してたんだろう。すぐにでも張り直す必要があるな。」


「王宮には腕利きの結界師がいます。彼に頼めば問題無いですよ。」


リサエルさんと仲間の2人はそんなやり取りをしている。そんな所に入っていくにはちょっと勇気が必要だったけど、僕は3人に声をかけた。


「み、皆さん!今日はお疲れ様でした。じゃあ僕はこれで……。」


「待てよ兄ちゃん。」


「え?」


その時、その場から去ろうとする僕を、髭の生えた男性が声をかけた。

な、なんの用ですか……?


「な、なんですか……?」


「聞いてなかったのか?私達はこれから竜を解体してもらい、素材を換金所に持っていく。フレイムドラゴンの素材は高くつくだろう。」


「つ、つまり……?」


僕はリサエルさんの言葉にそう返す。そして2人の男性のうち若い男性がこう言う。


「冒険者のお金の使い方ってやつを、教えてあげますよ!」


「え……?」


その後、僕はこの世界で初めての体験をする事を、この時の僕はまだ知らない……。


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