第16話
こ、国王様がこんな所に……ロゼさんを追ってきたのか?
「メルク!お前がロゼを連れ出したのか?」
「はい。お嬢様を止められなかった私に責任があります。」
「そうか……いや、お前がロゼを庇う時はいつもロゼがわがままを言った時だったな。ロゼ、また外に出たいとわがままを言ったんだな。」
「……ごめんなさい。」
ヘイス国王、ロゼさん、メルクさんはおもちゃ屋の中でそんなやり取りをしている。
お、お客さんもいるからあまりそういうのは止めた方が……と思ったけど、相手は国王、僕が口出しできる訳無い。
その時、ロゼさんがプラモデルを持った手を隠しているのにヘイス国王様が気づく。
「ロゼ、何を持っている?見せろ。」
「そ、それは……。」
「見せちゃまずい物でも持っているのか?」
「こ、これです……。」
ロゼさんはヘイス国王様に問い詰められ、仕方なく持っていたプラモデルを彼に見せる。
ヘイス国王様、なんて言うんだろう……。
「こんな物を……いいかロゼ、これはお前にとって毒になり得る物なんだ。こんな物を買うのは禁止したはずだろう?このお店に返品しなさい。」
「……。」
う……やっぱりそういうのに厳しい人だったか……僕がいた世界でも、昔はそういう趣味に対して厳しい事を言う人はいたけど、最近は世間がそれに対して寛容になったから厳しい人も減ってきたのに……こんな時代じゃ僕がいた時代よりもそういう人は多いよな……。
「嫌です。せっかく作ったプラモデルなのに……父上はいつも私を縛り付けて……もうたくさんです!私は私のやりたいようにやりたいんです!」
ヘイス国王様に反抗するロゼさん。
だが、それに対して彼はゲメルさんにこんな事を言う……。
「反抗期というものか……店主よ!この店でのプラモデルとやらの販売を即刻停止しろ!」
「ええ?いや、そう言われましても……ウチだって商売でやってるんですよ?稼ぎ頭が無くなったら……。」
「我が子に有害な物を売らないで欲しい!」
……この国王様、さっきから聞いていればプラモデルの事を毒とか有害とか……。
「そんな……!」
戸惑うゲメルさん。ここまで言われたら、流石に今まで空気だった僕も反論せざるを得なかった。
「ちょっと国王様……。」
「キュート殿……さっきから思ってたがどうしてここに?」
「さっきから聞いていればプラモデルの事を毒になり得るとか有害な物とか……プラモデルの事を悪く言うの、止めてくれませんか?」
「何……?」
僕は緊張から冷や汗を垂らしながらも、なんとか国王に反論する。
いっちゃ悪いけどかなり強面の国王様だけど、僕は文字通り死ぬ気で彼に反論してみせた。
ここまで言ったからには……プラモデルの素晴らしさを国王様に教えて、彼にも「こちら側」の人間になってもらう!かなり難易度の高い事だけど……これしかない!
「ま、まずはあちらへ行って話をしましょう。」
「……良いだろう。一応この国では有数の召喚者がそう言うのならな。」
そうして僕はヘイス国王様を、おもちゃ屋の奥の長椅子と机がある所まで案内した。
この店ではお菓子が売ってある。
それを食べる場所として普段はこの長椅子と机が使われているのだ。
「これは……なんの真似だね?」
それがそこに来た時の国王様の第一声だった。
机の上に置かれたBM 1/155 QQ(ダブルキュー)ダンバル。それを見ての一言なのだろう。
「貴方にもプラモデルの良さを知ってもらいます。」
「これは庶民用の娯楽だ。我々王家には相応の娯楽があってだな……。」
「組み立ててみてください、父上。」
またプラモデルに拒否反応を示すヘイス国王様。それに対してロゼさんはそう言う。
「何……?」
「私はプラモデルを組み立てて確信しました。この世界に楽な事なんて無いんだって。これは確かに庶民用の娯楽かもしれません。ですがこれは「頑張る事」の素晴らしさを教えてくれる良い教材になると思います。」
ロゼさん、良い事言うなぁ……。
「私はこのプラモデルを組み立てた時、この角飾りを折ってしまいました。しかし……キュートさんはそれを許してくれました。そしてこう言ったのです。失敗とは経験値であり、積み重なればレベルアップすると。成功だけが成長への道では無いのです。」
「ロゼ……。」
僕が言った事だ……レベルの概念があるこの世界の常識と絡めて言ったつもりだけど、我ながら良い事言ったよなー……って何自惚れてんだ僕!
「そ、そんなに奥が深いものなのか……?」
「私はお嬢様がプラモデルを作っている姿を傍で見ておりましたが、それを見て確信しました……庶民が夢中になる訳だと。」
メルクさんもヘイス国王様への説得に加勢してくれた……このまま彼にプラモデルを作らせる所まで持っていければ……!
「そうか……なら取り敢えず作ってみよう。」
「父上……。」
「あくまで作るだけだ。見込み違いならプラモデルの販売は中止させる。そうでなければ……その時はその時だ。」
そうしてヘイス国王はプラモデルを作る決意をしてくれた。
よし!あとはヘイス国王様がプラモデルの良さを分かってくれるかどうかだ。
「ウチの命運は国王陛下の手にかかっているのか……緊張するなぁ旦那。」
「信じましょう。ヘイス国王様を……。」
お店の心配をするゲメルさん、国王様をプラモデルの力で改心させたい僕とロゼさん。
そしてプラモデルを作り始めるヘイス国王様。
この行く末は一体どうなる事やら……。
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