第15話

ロゼさんが作ったプラモデルのアンテナが折れてる事を僕はつい指摘してしまい、彼女に睨まれてしまう……。


「折ってません……折ってません!角飾りは元々こんな形でした!」


「い、いやその……。」


「この私を疑うのですか?なら……。」


「そ、そう言う訳じゃなくて……。」


どうする……?ここはロゼさんが正しいという意見に従うか?でも……この子はプラモデルを買った時に「これぐらい簡単に作れる」と自信満々だった。

なのにアンテナを折ってしまって……僕だってプラモデルを組み立てる時に誤ってパーツを破損してしまったら悔しい。


それにロゼさんは王女様……王女である自分にはできない事は無いという自信があったんだろう。

彼女は自分のプライドを守りたかったのかもな。

でも、プラモデル作りで失敗を犯したとなるとそれに傷がついてしまうのかもしれない……。


僕がいた国には王女様も王様もいなかった……天皇陛下はいたけど。

そんな偉い人が遠い存在だった僕はそういう人達の気持ちは憶測でしか考えられない……そんな僕に言える事、それは……!(思考時間3秒)


「良いんですよ、失敗したって。」


「……え?」


ロゼさんは、僕の第一声を聞いてそう呟く。そして僕は続けて話をする。


「僕は10年以上プラモデル作りを続けてきましたが、そんな僕でも失敗する事はあります。小さいパーツは無くしてしまいますし、細かいパーツは折ってしまいます。


それでも、1部のパーツが欠けた、或いは破損した完成品を見て思うんです。「このプラモデル作って良かったな」って。プラモデルってそういう物なんだと思います。大事なのは「そのプラモデルを作るのにどれだけ熱中したかどうか」だと思います。


パーツが欠けていても、角飾りが折れていても、僕にとってはそのプラモデルを完成させた事がかけがえのない体験なんです。だから……隠す必要なんてありません。ありのままでいいんですよ。」


僕はなんとかロゼさんを説得しようとした。

死刑にならない為の弁明では無いと言えば嘘になるけど、1人のモデラーとして、パーツを破損してしまったロゼさんを肯定したかった。


「隠す……?私はそんな……!」


「もう止めましょうお嬢様。キュート殿。お嬢様が嘘をついてる事を黙ってて申し訳ありません。私はこの目で、お嬢様がプラモデルを作る際、角飾りを折ってしまう所をこの目で見ました。」


その時、メルクさんはロゼさんがアンテナを破損させる所を見ていたと明かした。

やっぱりそうだったのか……。


「私は王女なのに……この国の御旗となるべくして生まれてきた存在なに……その私が15にもなっておもちゃ作りなんかで失敗するなんて……父上にどう説明したら良いか……!」


「大丈夫です。ヘイス国王がロゼさんに何か言うのなら、僕はロゼさんの味方をします!」


「……プラモデル職人さん……。」


僕は悔しそうな表情を浮かべるロゼさんをなんとか励まそうとして、そう宣言した。

僕なんかが国王様を敵に回すか……我ながら大胆な発言をしてしまったなー。


「プラモデル作りにおいて、失敗は経験値なんですよ。たくさん積み重なればレベルアップして今の自分よりも強くなれる。僕はそう考えています。」


「……はい、分かりました。今回は失敗を認めましょう。でも……今度は上手く作ってみせます!早速ですが、新しいプラモデルをください!」


「はい。既に用意してあります!」


既に用意してると言っても、こうなる事は予想外だったんだけど。

ストックしておいて良かった。そう考えながら僕は未組立状態のプラモデルと組立説明書をアイテムボックスから取り出してロゼさんに渡した。


「このプラモデルは……?」


「これは仮面ファイターゼロと言うヒーローで、組み立てると改造にんげ……からくり仕掛けのヒーロー、仮面ファイターゼロが完成します!」


このプラモデルも、BM(ビギナーズモデル)仕様のプラモデルで、ニッパーが無くても簡単に作れるようになっている。


「ありがとうございます!」


ロゼさんは僕にお礼を言ってくれて、お代の銅貨30枚を僕の手に握らせた。


「改めて自己紹介させてください。私の名前はロゼ・ブル・インゼル。この国の国王、ヘイス・インゼルの娘です。」


「僕は夏児究人です。これからもよろしくお願いします……ロゼさん。」


「こちらこそ!キュートさん。」


僕達は改めて自己紹介をして、お互いの名前を呼びあう仲になった。

まさか王女様と仲良くなれるとは……ていうか、護衛がいるとはいえ王女様がこんな所に来ていいのか?


「あのー、失礼だったらすみませんが、よく護衛1人だけつれて街に出られますね?ヘイス国王は許してくれるんですか?」


「それならご安心を。このネックレスに付いている「浄悪(じょうあく)の宝石」は周りの人の悪意を浄化するのです。だから、私の近くに私を拐おうとしたり、私を殺そうとする者がいても、その者の悪意はこの宝石によって浄化され、私をどうにかしようという意思はかき消されるのです。」


僕の疑問に対して、ロゼさんは首から下げている宝石を見せてそう説明してくれた。

そんな便利な道具もこの世界にはあるのか……それなら一安心だな。

それと、僕はもう1つ気になった事があったので、その事についてもロゼさんに質問をした。


「ところで……プラモデルを作ったというのはヘイス国王に言ったのですか?」


「いえ、お父様はこういうのに厳しいので言ってはいません。王宮にいる時は決まったドレス以外は着るのを禁止され、化粧品は悪い成分が入ってるからと化粧も禁止され、遊ぶ相手も父上が選んでおります。」


「それは大変ですね……。」


王女様って大変なんだな〜、何をするにも国王の言った通りにやらなきゃいけないなんて……僕だったらそんなの耐えられない。


「プラモデルを買いに来るのにも、こんな変装をして__」


「ロゼ!こんな所にいたのか!」


その時、おもちゃ屋に大きな声が響き渡る。僕が聞いた事のある声だけど、最近は聞いてない声だ。


「ち……父上……!」


そう、声の主はヘイス国王だった。

し、修羅場の予感……!



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