第11話
レイラさんと出会った日から4日が経過した。僕はその間プラモデルを作ってはゲメルさんのおもちゃ屋に入荷して、お金を稼ぐ生活を送っていた。
その日も僕はおもちゃ屋に入荷するプラモデルを作っていたのだけど、その日はある事を思いついた。
そう言えば、僕が作ってきたプラモデルは完成品ばかりで、組み立てる前のプラモデルは作った事が無いな。
「試しに作ってみよう。」
そうして僕はプラスチックマスターを発動し、「記憶から生成」を選択、未組立状態のプラモデルを選んで生成を開始した。
生成を開始すると、すぐに目の前に魔法陣が現れ、その中から生成した物が姿を現す。
「おぉ〜、出来た!」
僕が作ったのは、ランナー状態のMM(マルチモデル) 1/155 ストレイジダンバルだ。
僕が今まで作ってきたプラモデルで、2000年代初頭に作られたEM(イージーモデル)よりは高価だが、低価格故に簡易な構造のEMと違い、ヒノモトの最新の技術が惜しむこと無く使われているMMは作りやすさと完成後のクオリティを両立した良シリーズだ。
EMはだいぶ前に打ち切られたシリーズだけど、MMは今なお最新作が作られ続けている、言わばダンプラ(ダンバルのプラモデル)の支柱と言っても過言では無い。
そしてストレイジダンバルとは、「鉄騎兵ダンバル」とは異なる世界線の物語、「鉄騎兵ダンバルS(ストリーム)」の主人公機だ。
「さて、早速作るか……あ!」
この時僕は、プラモデルを作る上で1番大切な物が無い事に気づいてしまった。
昔はそれを使わずにプラモデルを作っていたが、それを使ってプラモデルを作る事がプラモデルの世界においての常識だと知ってからは、それは絶対に欠かせないアイテムとなった。
「ニッパーが……無い!」
そう、ニッパーである。
ニッパーが無いとプラモデルは組み立てられないよな〜……MMシリーズはタッチゲート式じゃないから手もぎはできないし……試しにプラスチックマスターでニッパーを作ってみるか?
そう考えた僕はプラスチックマスターでプラ製ニッパーを作ってみた。
いやプラ製ニッパーってなんだよ、と自分でも思ったけど、ニッパーに魔力を注いで硬度とか切れ味を付与させる……的な、アニメのような事をやってみようという訳だ。
「ぬぅぅぅぅ……よし、これで魔力が……注がれてるといいな。」
しかし……。
べキッ!
プラ製のニッパーは、ランナーからパーツを切り取ろうとした瞬間、嫌な音を立てて刃に当たる部分がへし折れてしまった。
「ダメか……。」
この世界って、ニッパーは作られて無いのかな……?作られてないとしたら、誰かに作ってもらうか?例えば鍛冶師とか……鍛冶師……(何かを閃く音)あ!
その瞬間からの僕の行動は早かった。おもちゃ屋に向かい、それがある場所を知ってそうなゲメルさんに問い詰める。
「ゲメルさん!4日前ここに来た、レイラさんの鍛冶屋の場所は分かりますか?」
「ドワーフ工房か?それなら……。」
ゲメルさんはすぐにドワーフの鍛冶屋の場所を教えてくれた。
おもちゃ屋から歩いて数分の所で、「ドワーフ工房」と書かれている看板の立てられた建物を僕は見つけた。
工房は正面の窓が全て開けられており、そこから漏れ出す建物内の熱気を微かに感じ取る事ができた。
「すみませーん!レイラさんはいませんか?」
僕は建物の入口から工房の中へと声をかける。
それからしばらくすると、工房の奥から、おもちゃ屋に来た時と同じ姿のレイラさんが姿を現した。
「あら、キュート君じゃない!いらっしゃい!何か用?あ、今じいちゃんが奥の方で冒険者用の剣を作っててカンカン音がするだろうけど気にしないでね!まぁ聞き慣れれば大丈夫だよ!」
やっぱり怒涛の勢いで喋ってくるなーこの人……。
「あの、レイラさんに作って欲しいものがあるんですが……。」
「えっ!?私に依頼してくれるの!?感動〜!ウチに来るお客さんは基本的にじいちゃんへの依頼が多くて、私は滅多に仕事貰えないんだ!子供の頃から鍛冶師のお手伝いやってて腕には自信あるんだけどね!まぁ本格的に鍛冶師を始めたのは3年ぐらい前なんだけどね。でも腕には自信あるよ!作れるものなら何でも作るよ!」
レイラさんは嬉しそうな表情で僕にそう言ってくる。
そんなに嬉しいんだ……と思いつつも、僕は壊れてないプラ製のニッパーを取り出す。
見本にしてもらう為に完全な状態のプラ製ニッパーを作り直しておいたのだ。
「このニッパーというものを作って欲しいんです。 」
「ニッパー?初めて見るなぁ。君のいた世界のもの?何のために使うの?」
「はい。組み立てられてない状態のプラモデルを作る為に使うんです。」
「組み立てられてない……プラモデル……?え?おもちゃ屋のプラモデルって、組み立てられた状態の物なの?」
「そうです。僕がいた世界では、プラモデルは買った人が一から組み立てる物なんです。」
「そうなんだ〜……。」
この事をこの世界の人に話すのは、レイラさんが初めてな気がする。
「サイズはこれと同じ大きさで良いの?」
「はい。手のひらサイズでお願いします。初めて作る物なんですよね?大丈夫ですか?」
「もちろん!作るのに1日かかりそうだから、明日の朝10時頃にウチに取りに来てね!」
「はい。よろしくお願いします。ニッパー作り、引き受けてくれてありがとうございます!」
こうして僕はレイラさんにニッパー作りをお願いする事ができた。
依頼料は銀貨100枚で、僕は今までのプラモデルの売上の内、銀貨100枚を財布から取り出してそれをレイラさんに渡した。
僕はこの世界の人達に「プラモデルを作る楽しさ」を広めたいと思っている。
でも、ニッパーを知らない人達にニッパーを渡して「さぁプラモデルを作ってください!」は無理だろうから、タッチゲート式のプラモデルを作るのが1番だろうな。
作れるかな〜、タッチゲート式のプラモデル……宿に帰ったら試してみよう。
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