第10話

椿が売れるかどうかを観察し続ける事10数分、ついにその時は訪れた。

プラモデルコーナーに置いた紙の前で女性のお客さんが立ち止まって、それをしばらく見つめた後、意を決したのか、それを手に取る。


女性は後ろ髪を結んでいるオレンジ色の髪と、着崩したオレンジ色のツナギが特徴のお客さんだ。

ツナギの下には黒いシャツを身につけており、胸元が見えている……なんと破廉恥な!

年齢は僕よりも年上のように見える。あの格好……普段は何をしている人なんだろう……。


そう考えている内に、その人は紙を持ってレジに来た。


「すみませーん、これ実物見る事できます?」


「あいよ!これが実物だ。」


女性客に実物を見れないかと聞かれたゲメルさんは、僕が予め渡しておいたアクトガールシリーズ 月原椿を取り出し、それを彼女に見せる。


「ふーん、こういう感じか……。」


あの人、椿の事気に入ってくれるかな……?実物見たら思ってたのと違くてやっぱり買わない……なんて事もあるかもしれないし……。


「……君、さっきから私の事じっと見て……私のことが気になってるの?」


「あ……すみません!」


しまった、見ていた事がバレてしまった……。それに怪しまれてるし、冷静になってみると、こんなの女性に対してやる事じゃなかったよな……。


「良いよ良いよ!こんな格好してりゃマセた少年とかオッサンにもよくガン見されるし!あ、もしかして君が先にこのプラモデルに目を付けてたの?」


「い、いえ、別に狙ってた訳じゃないので、貴方が買っていいです。」


「分かった。じゃあ買わせてもらうね!」


「おう!銅貨300枚だ。」


僕は女性客にはもうこんな事をするのは止めよう、と決意した。まぁ女性の方にも、人目は気にした方が良いのでは?と思いもしたが。

その女性客は、ゲメルさんから椿の価格を言われ、財布から300枚の銅貨を取り出した。

美プラは僕がいた世界でもダンプラよりも高く価格設定されてるから、それはこっちの世界でも反映させても良かった……よね?


「ところで店長、このプラモデル作ってる人って誰なの?この店でプラモデルっていうのが売られてるっていうのを聞いて来たんだけど……。」


その時、女性客はゲメルさんにそんな質問をする。


「それなら、そこの旦那だぞ。」


「あ、僕です。」


「ホント!?」


僕がプラモデルを作っているという真実が、ゲメルさんによって女性客に知れ渡った瞬間である。

果たして女性客はなんって言ってくるんだろう……?


「君凄いね!!こんな精巧な物を作れるなんて!!同じ物作りを仕事とする人として尊敬するよ!!どうやってこれ作ってるの?作れたとしてたくさん増産できるの?できるとしたらとても凄い事だと思うわ!!それにこの材質……初めて触る材質だわ!!どこでこんな物を……いや、一から自分で作ったのね!?どうやって!?」


す、凄く早口で質問攻めしてくる……褒められてるのは分かるから嬉しいけど、どう答えれば良いのやら……。


「えーっと、このプラモデルは、スキルで量産しているんです。僕じゃなくて、凄いのはスキルなんですよ。プラスチックマスターって言うスキルです。」


「スキル!?プラスチックマスター!?初めて聞くスキルだわ!!それとさっきから気になってたけど、君のその黒い瞳……この国には滅多にいないのよ?東洋人と言う可能性もあるけど……もしかして貴方召喚者?召喚者は東洋人に近い外見をしている事が多いって聞くのよね。そして召喚者は神の恩恵によって特殊なスキルを持って召喚される……そのスキルがプラスチックマスターって事!?」


「え、えっと……。」


ダメだ、答えを言おうとしても言うタイミングが掴めない……!いや、僕もプラモデルやダンバルの事を話す時は、傍から見たらこれぐらい饒舌なのかもしれないけど……。


「おいお客さんよぉ、旦那に答えを言うタイミングをくれてやったらどうだい?」


「あ……ごめんね!1番気になってる事なんだけど、名前は?」


「究人です。夏児究人と申します。」


「キュート君か!私はレイラ・ノーテンチェンジャー!よろしくね!」


レイラさんと言う名前なのか……僕の商品を買ってくれるお客さんとは、良い付き合いをしていきたいな。


「ちなみに鍛治が得意な私はドワーフ族なの!肩にドワーフ族に遺伝する痣があるでしょ?ほら!」


レイラさんはそう言って、肩の紋様のような形の痣を見せてくる。

ドワーフの事は宿屋の主が貸してくれた人体学の本に載ってたぞ。

鍛治が得意な亜人種だって。生まれつきドワーフ族特有の痣を持っている事もその本で知った。


「ドワーフの女の柔肌はどう?スキンケアは欠かさずやってるのよ?」


「あっ、じっと見てすみません……!」


「良いよ良いよ!こっちが好きで露出してるんだから!」


か、からかっているのか?これが大人の余裕という物なのか……。


「所で、鍛冶が得意って事は貴方は鍛冶師をやっているんですか?剣や鎧を作ったり……?」


「そだよ!冒険者や王国騎士の皆さんに装備を提供してあげてるのさ!」


「もしかして、ノーテンチェンジャー家の6代目当主になる予定の利き手の女鍛冶師って、お客さんの事か?」


「それが私なのです!」


「そうか!将来が楽しみだな!」


ゲメルさんによると、ノーテンチェンジャー家は鍛冶師の名家としてこの国では有名なようだ。


「そゆことだから、これからもよろしくね!キュート君!」


「はい!お買い上げありがとうございます!」


そうしてレイラさんは椿のプラモデルを片手に、店を後にした。

美プラが売れると知れたのは良い収穫だったな。


「どうだ旦那。この国は美女が多くて良いだろ?」


「そ、そうですね……。」


ゲメルさんの言う通り、この国に召喚されて1週間ぐらいで、僕は女優レベルの美女に3人も出会っている……美女は目の保養だと、プラモデル同好会の友達も言ってっけな。


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