第9話

この世界でも美少女プラモデルは通用するのか、それを確かめる為に、僕はゲメルさんと共になんか如何わしいお店に来て、その店の店長にアクトガールシリーズの月原椿を見せてみた。

それを見た店長のアゼットさんは美プラを絶賛してくれたけど、そこにある女性が現れて……。


「おぅシルビア。この人形は人形職人のこのボウズが作ったんだ。すげぇだろ?」


「ふぅ〜ん。ガキの癖にこんな人形作るなんて、マセてるのね。」


シルビアさんは椿をまじまじと観察した後、僕にそう言う。

う……厳しい性格の女性だな……。


「でもこんな人形は今まで無かった。こりゃ革新が起こったと言っても過言じゃないぜ?ボウズのスキルならこれが増産できるんだろ?だったらやるべきだろ。俺だったらそうするぜ。」


アゼットさんは良い人だな。美プラの事をここまで肯定してくれるなんて。だけど、それを聞いたシルビアさんは……。


「でも、店長がどれだけ褒めても、結局の所売れるかどうかは別問題ですよね〜?売れる可能性もあるけど、売れない可能性もあるのよ?ガキなりに商売をやろうとしたんだろうけど、商売はね、売れたものが正義なのよ。私はこの店でトップの売上を出してる稼ぎ頭なの。貴方とは格が違うのよ!」


「……」


「おいシルビア、その辺に……。」


シルビアさんはキツイ事言うな……そりゃ僕はこの世界に来たばかりだし、商売なんて前いた世界でもなった事ない。

この美プラだって、対象年齢は15歳以上で、ロボットプラモデルとは色々と勝手が違うから、その分買う人は限られてくる……。

誰でも買えるロボットプラモデルと、買う人が限られる美プラ、どっちで勝負した方が良いかはこの世界においては明確だ。でも……!


「僕は……この人形、いえ、プラモデルを求める人がいるのなら、その人にこのプラモデルを買って欲しいです。このプラモデルは言ってしまえば大人向けコンテンツです。


子供には売れません。大人には売れますが……でも、逆に大人になら売れるという事です。大人の需要を満たせるということです。僕なんかよりもこの世界の事をよく知っているアゼットさんがこの美プラを認めてくれたんです……だから、僕はこの美プラで勝負します!」


「よく言った旦那!」


初対面の人に早口で口走ってしまった……シルビアさん怒るだろうな……。

ビクつきながらシルビアさんの返す言葉を待つ僕に、彼女から帰ってきた反応は……。


「ガキの癖に言うわね……まぁいいわ。貴方がやりたいならやってみなさい。世の中売れたものが正義……貴方がこの世界に自分の正義を示したいなら、まずは成果を出す事ね。」


「……はい!」


「私は夜に備えてコンディション整えるから……またね、プラモデル売りのガキ。」


シルビアさんはそう言って奥の部屋に戻っていった。

厳しい人だったけど、芯がある人でもあったな。


「悪ぃなボウズ、アイツ客の男以外にはいつもあんな感じでよ。改めて言うが、俺はその……プラモデル?売れると思うぞ。まぁ頑張れよ。」


「アゼットさん、今日はありがとうございました。」


僕はアゼットさんにお礼を言ったあと、ゲメルさんと一緒に店を出た。

結局、このお店ってどんなお店だったんだろう……知りたいような、知りたくないような……。


「ガキ!」


「はい!?」


その時、後ろから声が聞こえたので、僕は反射的に後ろに振り向く。

そこにいたのは、シルビアさんだった。


「今度はお客さんとしてウチに来な!その時は接待モードの私が相手してやるよ!」


「は、はい……。」


僕に笑顔でそう言うシルビアさんに対して、色々と勘づいた僕は適当な返事を返すしかできなかった。

やっぱりそういうお店だったのか……まぁ僕みたいなヘタレは、ああいうお店には似合わないんだけどな……でもシルビアさんには感謝しないとな。僕の背中を押してくれたんだから。


ゲメルさんのおもちゃ屋に戻る頃には、時刻は昼の1時頃になっていた。

今からでも遅くないと考えた僕は、早速店の棚に椿の美プラを置いてみようとした。けど……。


「ちょっと待て旦那、その状態で棚に並べるのか?この店は子供の客が多いし……店の景観に悪影響と言うか……。」


「た、確かにそうですね……。」


店長の言う通り、美プラはセクシーな外見をしているから、子供には悪影響だよな。

僕が子供の頃見てたダンバルのアニメには裸の女性が映るシーンとかあったけど。

僕の街のおもちゃ屋に美プラがほとんど置いてないのもそういう経緯があったりして。(美プラはだいたいネットショッピングで買っている。)


「こうするのはどうだ?」


ゲメルさんはある提案をしてくれた。小さな紙に「美少女プラモデル 月原椿発売!レジにこの紙をお持ちください。」と書いて、それを店の棚に置くという案だ。


「これは良いですね。」


「だろ?さて、美少女プラモデルは売れるかな……?」


そうして美プラ販売を始めた僕とゲメルさん。

僕は美プラが売れるかどうかが気になったので、店の中に居座ってプラモデルコーナーを観察し続けた。

でも、いつまでもこのやり方はお客さんに怪しまれるな、とも思っている。

着ぐるみでも被って店のマスコットにでもなれば誰にも怪しまれること無くプラモデルコーナーの観察を……とか考えたり。


果たして、椿は売れるのか……?



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