第7話

私はすぐにでも家に帰って、汚れた服を着替えて風呂に入りたかったが、帰り道でプラモデルを持って嬉しそうにはしゃぐ子供を見て思い出す。

そうだ、私は仕事が終わったらあの店に行くとキュート君と約束したのだと。


一旦家に帰ってからすぐにおもちゃ屋に向かおうとしたが、そうするとその間にプラモデルが売り切れてしまうかもしれない。

そう考えた私は疲れた身体をなんとか動かしておもちゃ屋に向かった。


コボルト達との戦いはそれほど苦では無かったが、その後のシルバーオーガとの戦いが堪えていたのか、おもちゃ屋に着いた辺りで私は意識を失ってしまった。

A級モンスターに苦しめられるとは……私もまだまだだな……。



「……ここは……?」


リサエルさんは意識を失ってからたったの10分ぐらいで目が覚めた。僕は彼女が無事目を覚ました事に安心する。


「良かった……リサエルさん、汚れた姿で店に来るなり、いきなり倒れちゃったんですよ?」


「そうか……すまない。ここはどこだ?」


「ゲメルさん家です。おもちゃ屋の2階の。リサエルさんの意識が戻ったらお風呂に入れるようゲメルさんに言われているんです。着替えも用意してあるのでお風呂入ってください。」


「あぁ……。」


「リサエルさん、何があったんですか?」


「私は冒険者だ。だからモンスターと戦っていてな。なんとか勝ったものの、かなり強いモンスターだったのでかなり疲れてしまって……っ!」


リサエルさんは僕の疑問に答えてくれた後、お風呂場へと向かおうとしたが、足に負った傷のせいで身体を屈める。

お風呂の前に傷をどうにかしないと……そう思った僕は、失礼を承知で家の中を探し回って包帯を見つけ、それをリサエルさんの足に巻き付けた。


「すまない……。」


「どうってこと無いです。」


その後リサエルさんはお風呂に入り、10数分ぐらいでお風呂を出て、ゲメルさんの奥さんの服を借りて僕の前に姿を現した。

でも……なんかリサエルさんもじもじしてないか……?


「1人で家に帰れますか?あ、リサエルさんはお店にプラモデルを買いに来たんでしたねあと1個だけ残ってるんですが取り置きして……。」


「いや、その前に……頼みたい事があるんだが……いいかな?」


「何ですか?」


「その……下着を買ってきてくれないか?流石に……他人の下着を着ける訳にはな……いや、潔癖症という訳では無いんだが……。」


「え……?」


リサエルさんがもじもじしてる理由が分かった……そうか、この人下着つけてないんだ……!

つまりあの服の下は……いや変なこと考えてるな夏児究人!

その後僕は即座にリサエルさんが持っていたお金を借りてゲメルさんの家を出て、服屋に向かう。


あぶない……あの空間にずっといたら、僕は……僕はヤバかったと思う!

そう考えながら服屋へと向かう僕だったが、突然目の前に、宙に浮かぶ小さな光る玉が現れる。


「何の光!?」


「キュート殿……耳を貸しなさい。」


「え?」


言葉を発する光る玉。僕はそれが何なのかと疑問を抱きつつも、光る玉に耳を傾ける。


「キュート殿……リサエル様がお求めの下着のサイズは……。」


「はい……はい……カッテキマス。」


光る玉は僕に、買ってくるべき下着のサイズを教えてくれた。

……計らずしてリサエルさんのスリーサイズを知ってしまった僕の心境は複雑だ……。

僕は男なので女性ものの下着なんて前いた世界でも買った事が無いけど、その後、勇気を振り絞ってなんとかリサエルさんの下着を買う事に成功した。その後僕はすぐにゲメルさんの家に帰る。


「リサエルさん、し、下着買ってきました……!」


「ありがとう。風呂場の着替え室で着替えてくる。」


「はい。……下着のデザインってどんな物が女性に好まれるかなんて分かりませんでしたが、変なデザインだったらすみません……。」


「下着のデザインなんて私は気にしない。ある程度の見栄えのものなら何でもいい。」


そして僕はリサエルさんにそれを渡して、彼女はお風呂場前の着替え室でその下着を着て僕に下着を買ってきた事への感謝の言葉を言ってくれた。

それとリサエルさん曰く、あの光る玉は「精霊」と言う使い魔的なものらしく、自分の意思を遠くの人に伝える為に使役しているらしい。

僕と一緒に召喚された人で、極精霊使いってスキル持ってた人がいたけど、ああいうのを使役するんだな。


「今日はありがとう。それでは、私は下のおもちゃ屋でプラモデルを買って帰るとしよう。」


「はい。」


「所で、店の前にあった看板なんだが、プラモデルは女性にも人気なのか?」


「僕がいた世界ではそうでした。客層は広い方が良いですからね。」


そんな会話をしつつ、僕達は階段を下りて1階のおもちゃ屋へと向かったが……。


「売り切れてる……。」


「おう旦那、嬢ちゃん目が覚めたか?悪ぃな嬢ちゃん。最後のプラモデル売り切れちまった。」


ゲメルさんによると、エルスガルド水泳部の最後の売れ残り、ベイゴーは若い女の子が買っていったらしい。

アイテムボックスの中にもプラモデルは無いので、僕はある決断をする。


「そうか……。」


「こうなったら……プラスチックマスター!」


僕はその場でプラスチックマスターを発動し、リサエルさんの目の前でプラモデルを作った。

作ったのは売り切れたらしいベイゴーだ。


「リサエルさん、これ……プラモデルです!」


「これは……プラモデルが女性からも支持を得るというのも納得できるな。」


「気に入ってもらえて嬉しいです。お代は銅貨50枚です。」


「あぁ。」


そうして僕はリサエルさんからプラモデルのお代を貰って、店を出るリサエルさんを見送った。

プラモデルを買った彼女はとても嬉しそうに見えた。あんな顔をされるとやる気が出ちゃうな。



「ダンバルにベイゴー……どっちも良いものだな……。」


ベイゴーを買って家に帰った私は、棚に飾ってあるダンバルのプラモデルの隣にベイゴーを置いて、それをまじまじと見つめる。

キュート君にはもっとプラモデルを作って欲しいな。

そのプラモデルは私が沢山買ってやる!そう私は決意した。



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