11. 徴兵

「この馬鹿息子が!」


 実の父が、息子の上に馬乗りになってひたすらに殴る異様な光景。


 蓄積する痛みに、段々と薄れていく意識。


 そんな危険な状況でも、やっぱり彼女を連れてこなくてよかった、とそんなことばかり考えてしまう。


 これに耐えれば、僕はやっと解放される。


 愛する妻の側で、一生彼女を支えていけることを考えれば、安い代償だった。


 意識が途切れる寸前にそれは止み、僕は彼女が待つ家に帰ることができた。


「お前は追放じゃ。二度と顔見せるんじゃないぞ!」


 帰り際に聞こえた、父の最後の言葉。そんなものこっちから願い下げだった。


 これで僕は、父から、部族から完全に断ち切ることができたと思っていた。


 数年後のある日の朝、朝日を浴びようと玄関から外に出ると、一通の手紙が地面に置かれていた。


 一目見て、それは僕の部族で使われている素材だと気づいた。

 

 久しく忘れていた畏怖の感情が心の底から湧き出る感覚に、全身の毛が逆立つ。


 手紙の内容は、半ば脅迫的なものだった。


 近々始まる戦争に参加しろというものだ。


 しかも、命令を拒むと妻の命はないという言葉も添えられていた。


 その言葉が全く誇張されていないことは、誰よりも父のもとで過ごしてきた僕には簡単に理解できた。


 それに、この手紙がここまで送られたということは、この家は既に父の監視下に置かれているのだ。


 戦争に参加するのは、僕自身初めてではない。そのほとんどが後方支援だったけれど、幾度となく経験してきたことだった。


 けれど今回ばかりは、前線に配属されるのだろうと直感的に悟った。


 なのに不思議と、それでよかったと僕は思った。部族の掟を破った罰だというのなら、僕は喜んで受けられる。僕のせいで、フィールが傷つけられるのだけは我慢ならない。


 前線に配置されれば、きっと父も満足して妻には手を出さないだろう。


 そして僕は、愛する妻、身籠った子と離れた。


 でも、死ぬ気など毛頭なかった。死に物狂いで生きてやろうと、絶対に愛する家族のもとへ帰ろうと、そう決意した。


 予想通り、僕は前線へと配属された。安心して眠ることもままならない、発砲音と硝煙の匂いが世界を支配する、地獄の戦場だった。


 そこで偶々、僕は白百合の花畠に出会った。


 それはまさに、天国とか理想郷ユートピアと呼ぶに相応しかった。


 どうしようもない孤独感に苛まれていた僕は、その花畠を白百合の妖精と重ね合わせて見るようになっていた。

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