8. 会いにいく

 希望が打ち砕かれても、私は諦めなかった。


 とりあえず夫が持っていた本は全て読破しようと、私は読み続けた。


「お母さん、これなんて読むの?」


 あの日以降、エリィは私の側で絵本を読むようになった。私も声を荒げることをやめ、娘に寄り添うことにした。


 最近急に大人びた気がしたが、知らない漢字を訊いてくるのは年相応で安心する。


 そして私は、『赤い糸』に関するある興味深い慣習を知った。


 彼らの種族は死に場所をとても大事にする。『今際の糸』と呼ばれていて、死ぬ時に残る赤い糸を、思い出の場所だったりと印象深い土地で残すそうだ。


「エリィ、今でも赤い線は見えるの?」

「うん。あっちの方にずっと伸びてるよ」


 そしてエリィはある方角を指差した。

 

(赤い糸を辿ると、あなたの最期の場所に行ける)


 行ったとしても、そこは私には何の関係もない土地だと分かりきっているのに、好奇心は抑えられない。


「ねぇエリィ、お母さんに赤い線が伸びてる場所まで案内して欲しいな」

「で、でも、とっても遠いよ?」


 エリィは多分そんなに遠くまで出掛けていいのか不安なのだ。


 体質上気軽に外に出歩けない私は、娘を遠くまで連れて行ったことがなかった。

 娘を一人で遊ばせる時は、決まって近場の山の麓までだった。


「大丈夫よ。それじゃあ準備しましょう」

「うん。やったぁ!」


 エリィは初めて見るほど可愛らしい笑顔になった。


 夏に差し掛かるこの頃は、日差しがとても強い。紫外線を一切通さない完全防備で、私は娘と共に赤い線の終点まで行くことになった。

 

 そういえば夫と初めて出会ったのもこの頃だったと、不意に私は思い出した。


 確かあの時、夫は籠に沢山の白百合を敷き詰めていた。手紙にも白百合が添えられていたし、本当に好きだったのか。


 家の側には、夫の墓が立っている。墓自体は小さいが、その代わりに色とりどりの花々で彩られている。


 あそこに、白百合を添えるのも悪くないかもしれない。


「お母さん、早くーー!」

「それじゃあ、行ってくるね」


 墓から視線を移し、急かす娘の元へと、私は歩き出した。

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