5. 喪失

 内容通り、手紙は毎日彼から送られた。


 意外だったのは、必ず一緒に数本の白百合も添えられていたことだ。


 何をそんなに気に入ったのか。捨てるわけにもいかず飾ってはいるが、正直置き場所に困っていた。


 手紙にも白百合が美しいとか、香りがいいとかそんなことばかり書かれていた。話題に乏しい人ではないから、単調な毎日を過ごしているのだろうか。


 他には、一人の同僚の男のことについても頻繁に書かれていた。


 彼も人間の女性と付き合っているらしく、意気投合したらしい。


 そんなことが続いて二ヶ月。夫の種族は旗色が悪く、危うい状況だった。


 予想以上に敵の戦力が高く、前線では死屍累々の死闘が続いていた。


 後方にいる夫からの手紙は相変わらず呑気なものだったが、私が不安にならないように配慮しているように思えた。


『戦争から無事に帰ったら、僕が直接フィールに白百合の花束をプレゼントしたいな』


 白百合なら毎日貰ってはいるが、夫からの手渡しならロマンチックですてきだなと思った。


 けれど、その手紙を最後に、夫からの通信は途絶えた。


 その後、戦況は一気に覆り、無事夫の種族は勝利を収めた。


 けれど手紙が届かぬまま、夫の死亡通知書と、遺骨が届いたのは同時だった。


 小さくなった夫を抱き抱えると、泥臭さと硝煙の匂いが微かに漂い、私の視界は次第に滲んでいく。


 慣れた白百合の香りは、しかし、微塵も感じられなかった。

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