3. 別れ
それから数年が経ち、私たちは幸せな日々を送っている。
部族から追放された夫は私の家で生活をすることになった。虚弱な体質である私の代わりに、夫はよく働いてくれている。
そんなある日、私たちの暮らしは土台から崩れ去ることになった。
「ちょ、徴兵?」
「うん。他種族から宣戦布告を受けてさ。今回ばかりは僕も従わないといけないかも」
戦争に参加するってこと? 夫を追放しておいて呼び寄せるの?
あまりの理不尽さに、いつの間にか私は声を荒げていた。
「そんなの、あなたが従う必要なんてこれっぽっちもないじゃない!」
「けどもし拒んだら、今度は僕と一緒にいるフィールにも被害が及ぶかもしれない。それに、僕は軍人でもないしきっと安全な後方に配属されるよ」
夫は笑顔で、必死に自分の安全をアピールしてくる。
本当に自分は安全だと楽観視しているのか、それとも私を心配させたくないだけなのか、私には判断がつかない。
けれど、自分が戦地に行くというのに私ばかりを心配している優しい夫のことがどうしても好きで好きで、大好きで。
そんな夫を不安にさせるのは、彼の妻として相応しくない。
だから私は夫の選択に従うことにした。
そして後悔のないように、本当はまだ隠しておくつもりだったことを夫に告白することにした。
「実はお腹の中に、あなたの子供がいるの」
夫は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに破顔して無邪気に喜んだ。
そして、何かを思いついたかのように夫は言葉を紡いだ。
「それじゃあ、その子と僕は『赤い糸』を結ぶよ」
『赤い糸』。夫の種族だけが持つ特殊能力で、種族同士かつ、一人としか結ぶことができない特別なそれは、相互間の物質の瞬間移動を可能にする。
結婚相手と結ぶのが通例なのだけど、人間である私と結ぶことはできないので、話題に出すのは避けていた。
けれど、まさか私たちの子供と結ぶことができるなんて思ってもみなかった。
正直に伝えたのは、僥倖だった。
「この子と結べば、いつでもフィールに手紙を送ることができる。これでどれだけ離れていても、僕たちは一緒だ」
そして心残りなく、夫は私の元を離れていった。
そうして夫が出発してちょうど一週間後、椅子に座ってうとうとしていると、気付かぬうちにお腹の上に一通の手紙と、数本の白百合が添えられていた。
しっかりとして青々しい茎は、窓から入り込む微風が心地いい初夏を思わせるものだった。
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