2. 温もり
勢いのままプロポーズを受けてしまったけれど、すぐに拒否し直すのも彼に申し訳ないと思い、とりあえず私たちは数日間お試しで付き合うことになった。
世間から離れようと決心し、こんな山奥で暮らしているのだが、彼の過保護で優しい性格は私の心の傷口に深く沁みた。
数日の間でも、私が彼を好きになるには十分すぎる時間だった。
そして今度は私から、彼にプロポーズをした。彼は快く私の気持ちを受け取ってくれて、正真正銘私たちは愛し合う夫婦となった。
夫婦になったといっても、それは私たちがそう認識しているだけで、正式に結ぶ必要がある。
一番の問題だったのは、お互いの両親への報告だった。
私の両親は独り立ちできる年齢まで育てると、愛想を尽かしてどこかへ行ってしまった。だから今更会いたいとは思わなかったし、報告する義理もない。
問題なのは夫の方だ。彼の種族は幾つかの家系が集まって一つの部族を作って生活する。
そこには独自のルールというものがあるわけで、厄介なのはその一つに他種族との結婚の禁止があることだ。
「ごめんフィール。僕がこんな部族に生まれたばっかりに。でも安心してほしい。僕は部族を抜けてでも、君と共に暮らすことを選ぶから」
夫は優しいのは勿論、時折見せるその勇敢さのようなものも私の目には魅力的に映った。
私は顔が熱くなるのを感じながら、とりあえず危ないから僕一人で行ってくる、という夫の提案にコクっと頷いた。
夫の帰りを編み物をしながら待っていると、夫は傷だらけの状態で帰ってきた。
勿論傷の状態も気になったけど、憔悴しきった夫の精神面のほうが気がかりだった。
「ごめん。頑張ったけど、無理だったよ」
激しい口論は次第に暴力を伴った抗争へと発展したそうだ。
けれど私にとって、夫が妻のためにここまで頑張ってくれたことが何よりも嬉しかった。
だから私は、慰めの言葉の代わりに、夫を抱きしめた。
私より一回りも二回りも大きい夫を抱きしめるのは大変で、私の行動に気づいた夫は逆に私を抱きしめ返した。
私の首元に顔を埋めて、声を押し殺して泣き始める。
(これじゃあ、マフラーは要らないかな)
彼の温もりを感じながら、この先訪れる寒さの厳しい冬を想像する。
夫と一緒なら、この残酷な世界でもなんとか生きていけるかもしれない。
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