『赤い糸』に白百合を添えて

pine卿

1. 出会い

 私の夫、セドリドは人間ではない。


 とはいえ、私が人間なのかといわれれば、自信満々に頷くことはできないのだけれど。

 私は歴とした『人間』という種族ではあるが、アルビノの個体だった。


 絹のような透き通る白髪、グレーの瞳を特徴に持ち、紫外線に弱く弱視だった。


 夫の種族は人間たちからすると、化け物のような姿形をしている。


 身長は平均して二メートルを超え、肌は焦茶で筋骨隆々。歯は牙と言ってもいいほどギザギザで鋭利だった。


 夫に初めて出会ったのは、私が山の麓で植物採集をしていた時だった。


 そこは私の家の近場だ。大自然に囲まれた人気のない場所に、私は一人で暮らしていた。


 人間と夫の種族は平和協定を結んでおり、私も彼らの姿を見たのは初めてではないので特別恐怖心を抱いたり、驚いたりはしなかった。


 しかし、こんな無人の場所で珍しい種族と鉢合わせするなんて。とても変わった方がいたものだと、失礼なことを思ったりもしたけれど。

 

 目の前の彼が最も変わっていたのは、私の顔を見た途端にその手に持っていた籠を落として、ぼーーと私を直視し続けていたことだ。


 頬は茶色の上から朱が差していて、キリッとして鋭いのが特徴の双眸も、だらしなく目尻が下がっている。


「あ、白百合だ」


 彼が落とした籠に目線を移すと、びっしりと敷き詰められた白百合で飾られていた。


 その美しさに暫しの間惚けていると、目の前の彼から言葉が発せられた。


 そうしてアルビノとして世間から虐げられてきた私は、人生初のプロポーズをされた。


 その外見からは想像がつかないほど優しい声色で、思わず私は承諾してしまった。


 そうして初対面、しかも数分の間に、私たちは夫婦になった。


 

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