第198話 そろそろ一年が経つ⑥

 そろそろ一年が経つ。

 どこから数えるかで変わってくるが、今回は『トルトゥーガ特別税制』を認めてもらってから数えて。

 王都へ出向いて役人とビシバシやり合ったり、お偉いさん方とガリガリ神経削りながら話さなきゃあならん時期がやってきちまったわけだ。


 でだ、いま俺は無計画に手ぇ出しまくった案件をまとめるわけだが……、数が多すぎて頭がこんがらがっちまってる。


 実のところ俺にも、ベリルがあれこれやらかすことを楽しんでた側面があったのも否めん。調子乗るから本人には絶対教えねぇが。

 ある意味で自業自得。気ぃ重いとばかり言ってられねぇやな。


 まずは目で見てたしかめよう。そう考え、ツラツラと案件を紙に書き連ねてってんのに、


 ショキチョキ……ショキチョキ……。


 厄介事の源ベリルが、せっかく書いた覚え書きをハサミ——亀素材製だから正しくは魔導ハサミ。軽くて切れ味バツグン——で切り刻んでやがった。


「おうコラ、どういうつもりだ」

「お手伝いのつもり〜」

「は?」

「こんなんダラダラ箇条書きしても把握できないってー。んっとね〜、こーしてこーやって、ほらほら、これはじめの状態ね。どーよ、意味不じゃーん」


 ベリルが並べ直した紙を見ると——


スモウ大会

たぶん教会その他各方面と調整

ヘタすると会場作りまで

チャリティーなる養育費集めも

その協力者を募集とか

アンテナショップの確認

確定申告

これがくっそ面倒くせぇ

道路の説明

勇者のお披露目会

割と本気で出たくねぇ

諦めず避ける方法を模索

魔導三輪車を供物にする

ついでに魔導三輪車の献上

どうせ言い出すはず

ついでに魔導列車の許可も言い出しかねん

教師探しとかいいだす可能性あり

魔導歯車の宣伝

技術交流会の説明会

ダークエルフに挨拶

タイタニオ殿に挨拶

ポルタシオ殿に挨拶

王様に酒の礼を言う

王妃様に酒の礼を言う

シャツの宣伝


 ——となる。

 うむ。書いた俺自身ですら把握しずれぇな。


「つーか父ちゃんの愚痴まで書いてあるし」


 おう、そりゃあオメェへの苦言だと理解してくれ。


「こーゆーのは、こーして〜……」


 と、ベリルは別の紙を四つ折りにして、その上にいくつかの小片にした紙を並べていった。


「上に向かうと重要度でー、右に向かって優先度って感じねー」


 なるほどな。たしかになにから処理していけばいいのかが丸わかりだ。


「ひひっ。これ、めっちゃ頭イイ人が勉強すんのに使ってたやり方だし」

「そうかい。で、このまとめ方はなんて名なんだい?」

「知んなーい」


 だと思った。


「……オメェは使ったことあるのか?」

「あるし」


 そいつぁ意外だ。


「役に立ったんか?」

「んんー。数学ぅとか物理ぃとかいろいろ書いたんだけど、結局ぜんぶ右端いきだし。最後なんてどれも『もー手遅れゾーン』行きだったもーん」


 と、新たに右側へ『もう手遅れゾーン』と書いた別の紙を横に並べた。


 やっぱり書いてみただけで、ちっとも使ってねぇのかよ。

 まぁいい。要点はわかった。


「便利そうだ。なら俺ぁこいつで、誰かさんの後始末の把握に努めるとすっかねぇ」

「んじゃ、あーし切ってあげるし」


 コイツわかってて聞き流してんな。


 そっから俺は優先度と重要度を鑑みて、やるべき事を並べていく。スモウ大会は重要だが急ぎじゃねぇ。道路の報告は早めにしなくちゃならん……ってな具合に。


 珍しく問題幼児がいっしょだってのに、やたらと静かだ。おかげでスゲェ捗る。


 紙が擦れる音と息遣い。

 カリカリ……カリカリ……ショキチョキ……。


「おいコラ」

「ん?」

「いつまで経っても終わらんと思ったら、犯人はテメェか!」


 ベリルのやつ、思いつきを追加してやがって。

 なんだよ、この『かっぱん印刷マッシーン』っつうのは。


「しょ、証拠はあるのかね?」

「いまテメェの手元にあるペンとハサミが動かぬ証拠だろ。つうかここらへん丸っとテメェの字じゃねぇか」

「ふむ。これは筆跡鑑定が必要だし」

「んなもんいるか。こんだけの用事こなしてたら、王都行って帰ってくんのに一年じゃ利かんぞ」

「なら、もー王都住んじゃう?」

「住まねぇよ」


 話してるだけで頭痛くなっちまうぜ。ったく。


 これ見よがしにベリルが追加したぶんをハネてやる。一瞬、握りつぶしてやろうかとも思ったが、悪気はねぇんだろうからやめておいた。

 ここでせめてもの慰みに、悪びれてくれたらいいもんを、


「つーか、まだまだあるし」

「は?」


 怒涛の提案がはじまっちまう。

 止めても止まらん。


「こないだワル商人にー『イイ感じの紙探しといてー』って頼んどいたから、まず見本持ってきてもらったら印刷するっしょー。つっても版画みてーな単純なのだけどー。それでね、学校の教科書つくるし。まだマンガとかはムリかもだけどー、でも小説の執筆コンテストすんのとかいーかもーしんなーい。それとレシピ本書いてー、こっちは事前予約とかやって絵も入れるし。つーかマストだし。あとそれからー」


 まてまて待て。


「待てベリル」

「待ったねーし〜。あとあとあとね〜、服も種類増やしてブランド展開しちゃってー。あっ、もーブランド名は考えてあっから安心してー。ひひっ、聞いちゃう?」

「——聞かねぇよ!」


 どんだけ言ってもダメそうだ。

 だから俺は、紙束に『上申書』と表題を書いて渡してやった。


「今後は、そこに書いて報告したもん以外は受け付けねぇからな」

「ええー。いちいち書くのメンドーイ」


 このやろっ。さんざん年長のチビエドに記録が大事やらなんやらほざいてたのは、どの口だ。


「あのよぉベリル、その書くのも面倒なことを実行に移してる俺の苦労は想像できねぇのか? ぇえ?」

「んっと……、いっつもご苦労さまでーす」


 あっけらかんと言いやがって。


「とにかくだ。俺が書いたぶんで締め切り。いいな」

「つーことは来年かー」

「来年やることがこれだ、ボケ」

「てゆーかさーあ、来年の話すると鬼が笑うってゆーじゃーん。なのに父ちゃん怒ってるし。くひひっ、ヘンなの〜」


 んな話聞いたことねぇよ。そもそも笑える話なんか一つもしてねぇだろ。


「ほんじゃ余裕あったら進めちゃう感じでー」

「だから、まだ俺は仕事の一つも片付いてねぇんだって」

「『父ちゃんの戦いはこれからだ!』的な?」


 それ言うなら『俺の仕事は』なんだが。


「……ま、ある意味では役人との戦いか」

「父ちゃんの仕事はこれからだー! って、なーんかマンガの打ち切りテンプレみたーい」


 ベリルが乱造した面倒事の数々、できるもんなら打ち切ってやりてぇよ。ったく、こんだけ言っても次から次へと手間増やしやがってからに。

 でもまっ、おかげで退屈しない日々を送らせてもらってるんだもんな。文句ばっか言ってねぇで手ぇ動かさんと、か。




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あとがき


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 父ちゃんは打ち切りっぽいことをボヤいていましたが、まだまだ本作つづきますよ。引き続きよろしくお願いします。

 

 第二章の末に孫の誕生から遡った一年間は、これにて。本編のつづきは第四章のまとめを挟み、次話から新章スタート。時間軸は確定申告当日からです。

 

 少しでも「つづきが気になる」「おもしろい」など興味をもっていただけたのなら、ぜひとも目次下から【フォロー】【★で称える】【おすすめレビュー】を!


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             枝垂みかん

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