第189話 アンタらもここの子!④
昼メシを食わせたら、こんどは昼寝させるんだと。
「オメェがダラけてぇだけじゃねぇのか?」
「あーしはともかく、あの子らにはそーゆーのもイイかもしんなーい。一回マジ堕落させて欲を覚えさせちゃうの。そしたら少しはワガママ言うよーになったりしてー」
堕落させて欲を覚えさせるってなぁ。それ、まるっきり悪魔の口ぶりだぞ。
午前に身体を動かしたせいか腹いっぱいメシ食ったからか、チビどもは横になった途端にスースー寝入っちまった。まるで戦場での兵士が休めるときに休まないと参っちまうと知ってるかのように……。
そう考えると、寝息立ててるあどけない顔がちっとも健康的なモンに見えねぇ。
「今日はこんなもんか?」
「いやいや、お昼寝だから少し経ったら起こすって。そっから制服作んなきゃだし」
「おいベリル。まさかもう仕事させんのか?」
「違ーう。つーか外で話そっ。父ちゃん声デッケェから起こしちゃうし」
「お、おう……」
チビどもの部屋から出ると、ベリルは話をつづける。
「あの子たちに服を作ってあげんのっ。ホントはさ、自分が欲しいのとか好みとか言ってくれたらいーんだけど、そーゆーのまだムリっしょ」
「だろうな」
「だから、お揃いのめっちゃ可愛いの着させてあげるんだも〜ん。ひししっ」
それ、オメェの趣味が入ってねぇか?
「なにさー」
「いいやなんも」
どうせサストロに仕立てさせるんだろ。となると相当高価な服になっちまう。
「まーたおカネの心配してんのー?」
これ、娘に言われるとけっこうクるな。
「ここんとこ出費ばっかりを一覧に
「ふーん。んじゃあ、あの子たちに使ったおカネはあーしがまとめとくし」
「そりゃあ助かる。けどよ、食費とか諸々考えんのはかなり面倒だぞ」
「だいじょぶ。だいたい一食いくらって感じで計算しちゃうし。お風呂とかも月いくらみたいなザックリでいいっしょー」
つうことは、こっちが請求することになるから、また細々した記載が増えるだけじゃねぇか。
それでも先にベリルがまとめといてくれるぶんだけマシか。ゴーブレにも手伝わせればいいしな。
いまも部屋んなかで寝息立ててるチビどもより小させぇってのに、コイツ、カネ勘定だけは役人顔負けだよな。
やりっぱなしにする悪癖はあるが、それにしたってよく働く。ちったぁガキらしくしときゃあいいもんを……。
「なぁ、オメェも昼寝してきたら?」
「ひひっ。なーにー、父ちゃんってば、あーしのカワユ〜イ寝顔みたくなっちったとか?」
「寝言は寝てからほざけ」
「またまたー。前から言ってるけどー、オッサンのそーゆーのマジ需要ねーかんねー」
「そうかい」
「そーだしー」
それだけ言って、ベリルは「ああ、いそがし忙しっ」と午後からの支度をはじめた。その後ろ姿ら、どことなくウキウキしてるように見えなくもねぇから不思議だ。
◇
思っていたより早く、採寸は終わった。
つうか背丈しか測ってねぇんだが。
「そんなもんで大丈夫なのか?」
「はい、領主様。袖を通される方の身長だけで、ほぼサイズは見分けられますので。あとは試着するだけで済みます」
「そりゃあいいな。前は服作るのに何日もかかったが、必要なときにすぐ揃えられるってことだろ」
「ええ。そのおとりでございます」
サストロは満足げ。だってのにベリルは不満ヅラだ。
おおかた、言われるまんまキチッと並んでムダ口一つ叩かねぇチビたちのお利口さんっぷりが、気に食わんのだろう。
「おいベリル。あんま顔に出すな」
「おっといけね」
これ以上は必要ねぇか。
チラチラとベリルの顔色を窺ってるってのは本人も察してるみてぇだし、不機嫌晒せばチビどもにビクつかれるってのも理解できてるようだしな。
待てよ。そう考えると、チビどもの面倒をみさせんの更生に役立つかもしれんな。
もしかしたらコイツの奔放っぷりが少しは落ち着く……いいや、ねぇな。あってもらって困りはせんが、それはそれでなんとなく微妙な気分だ。
「父ちゃんヘンな顔しちゃって、どーしたん?」
「なんでもねぇよ」
そっからチビたちに風呂の使い方を教えたり、あちこち回って挨拶を教えたり自己紹介させたり……。
晩メシを食わせて、ようやく初日が終わった。
まだ風呂に入れるって大仕事が残ってるが、そいつぁゴーブレ任せ。ってより、そもそも本人の希望だからな。
「さぁて、俺らも帰ぇって風呂にすっか」
「はあ? なに言ってんのさー?」
「オメェこそなに言ってやがる」
「もー忘れちゃってるし。だから鈍っちゃうんだってばー」
「………おん?」
おっと、そういうことか。
いやでもよ、今日はいろいろあって疲れちまったんだ。明日から——
「明日から本気出すってー? そーゆーの言ってっと絶対ガンバれねーしっ」
「おいコラ、あんま親父をみくびんなよ。俺ぁ片ときも、戦場に居るっつう心構えを忘れたこたぁねぇんだ」
「ほーほー。なら、いますぐよーい——」
パンンンッ! と、地面に例の『ピストル』っつう虚仮威し魔法がブッ放たれた。
俺は条件反射みてぇに駆けだす。
こっから延々つづくのか。と思ったら、すぐに足元を弾かれて、
「止まらなーい。ゆっくりでいーから走っててー。んで——」
またパンンンッ! だ。
「全力ぜんりょくー、呼吸しないで猛ダーッシュ!」
そしてまた止められる。
おおよそだが、四〇を全力でこなし二〇のあいだ軽く流す。この繰り返し。
これ、普通に走りつづけるより……キ、キチぃんだが……心臓……破けちまいそ……。
「そーいや何回やるか忘れちゃったし。まっいーや。とりあえず五〇回くらいやっとこーう。あっ、あと魔法は禁止だかんねー」
ウ、ウソだろ。
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