第三章 禿山要塞化計画、不承

第146話 禿山要塞化計画、不承①

 トルトゥーガにつくや否や、リーティオは方々に詫びてまわるとスッ飛んでいった。

 てっきり、うちの者が集まったところで謝んのかと思ってたら、違ったみてぇだ。


 ヤツの気の済むようにしたらいいさ。


 そしてベリルは、さっそく部屋にこもって太鼓の絵図を描きはじめた。


 それが終わると、


「ホーローたちんとこ行ってくんねー」


 倉庫へ向かおうとする。


「おい待て。俺からの依頼でもあるんだ。いっしょに行こうぜ」

「うんうんいーかも。父ちゃんがおいコラ言ったら、むっちゃガンバると思う」

「言うかボケ。ちゃんと頼むんだよ。大事な贈りモンだから、なるったけ良く作ってやってくれってな」

「そっかそっかー。つーか、めっちゃ太鼓楽しみ〜。ついでにあーしのぶんも作っちゃっていーい?」


 しれっとねだりやがってからに。


「構わんぞ。だがテメェの財布から料金はキッチリ払えよ」

「ええ〜っ。うちの共有の財産ってことでさーあ」

「オメェ、実はけっこうケチだな」

「——ちょ! ケチとか言わないでーっ。そーゆーんじゃねーし。もー怒ったっ。そんなんゆーんなら、スンゴイデッカデカな太鼓注文して寄付しちゃうもんね!」

「わぁったわぁった。どっちにしろホーローたちが泣くから、やめとけ」

「しゃーないなー」


 出掛けるだけでひと苦労だ。


 それからぴょんっと背中にへばりついてきたベリルを肩車して、倉庫へ向かう。


 ホーローたちは俺が想像してたのと違う反応をした。

 なんつうかスゲェやる気が漲ってる感じで、なにごとかと思ったくれぇだ。


 聞くとどうやら、キッチリ頭を下げるリーティオに痛く感じいったからってことらしい。つづく、将来の夢を語る少々歳上の男の姿にも心を動かされたんだと。

 気持ちはわからなくもねぇ。アイツら謝るの苦手だし、あんまり外のことを知らんもんな。


 つうわけで、ホーローたちはベリルの細けぇ要求も熱心に聞いて、満足いくもんを用意してみせると意気込んでた。


 

 晩メシどき——


 ひと月ぶりに我が家の食卓を囲んで、ヒスイの手料理を食う。


「「「いただきます」」」


 これを揃って言うのも久しぶりだ。

 だってのに、


「えーと、ゴハンのあと反省会をしまーす」


 なーんてほざく無粋者が一名。もちろんベリルだ。


「おう、テメェの振る舞いを大いに省りみやがれ」


 そう返してやると、


「ふっふっふっ。そこまでゆーんなら裁判所であいましょー」


 ベリルは不敵な笑みを浮かべ、ハムの野菜巻きをガブリと食う。

 つうかオメェは反省会っつってたろ。いつの間にか裁判になってんぞ。


「ベリルちゃん。お行儀よく食べましょうね」

「はーい」


 まーたいつものごっこ遊びだろうと、俺もスープを啜り、焼き肉を齧り、食い進めていった。

 

 そして食後。

 ヒスイが茶——といっても俺は酒で、ベリルは果実水——を用意したところで、問題幼児は反省会なるもんを蒸し返してきた。


「今回のことで反省しなきゃいけないのってさー、なんだかんだで一番は、ゆるゆるなセキュリティじゃなーい?」


 たしか防犯って意味だったか。

 さておき、コイツが話をどう持っていきてぇのか読めちまったぞ。


「つーわけで、やっぱし禿山を要塞にしちゃおーう!」

「待てコラ」

「なーにー。そもそもドロボー入れなきゃトラブルにもなんないじゃーん。ダメなーん?」


 言いてぇことはわかる。だからって話が飛躍しすぎだろうが。


「おんなじことが起こらないよーに、周りにビビられるのもいーんだけどさーあ、それだけじゃなくって『うへっ。これ忍び込むのムリじゃね?』なるよーにしたらよくなーい」


 その方が面倒が少ないのも理解できる。しかしだ。


「そんなカネどこにある?」


 以前見た計画書には、とんでもない予算が組まれてた。そりゃあもう国家の事業と遜色ない膨大な額が盛り込まれていたはず。

 しかしベリルには代案があるようで、


「はい、これ」


 と、テーブルを滑らせてきた紙の表題には『禿山要塞化計画・バージョンツー』と記されていた。


「なにこれ?」

「書き直したし。前のはなしで。現実的な感じにまとめたのがそれっ。もっとはちゃめちゃな大砲とかいっぱいの『禿山黒鉄要塞化計画』とか、空飛ぶお城の『禿山天空要塞化計画』もあるし」

「——よし。直ちにすべて破棄しろ」


 響きだけでも物騒な気配がしたから、条件反射で却下しといた。


「そーやって、またー」


 俺とベリルの話が並行線になると見るや、ヒスイが「あなた」と口を挟んでくる。

 見るだけで見てやれってか? ったく。どんだけ娘に甘いんだ、うちの女房は。


「読むだけだぞ」

「ひひっ。父ちゃんってばマジママに弱ーい」

「こおらベリルちゃん。そんなことを言ってはいけません。アセーロさんがヘソを曲げてしまうわよ」

「おっといけねっ。父ちゃんてば、めちゃ愛妻家さーん」

「あらいやだ。照れてしまうわ」

「いやんいやーん。ママ可愛い〜い〜っ」


 ……俺、読んでるんだけど。ちっと黙っててくんねぇかな。


 なになに——


 金貨十枚ぶんの石灰で、高さ二メートル厚さ六〇センチの壁が、約五〇〇メートル作れる、と。

 んで、外周はおよそ七五〇〇メートル。ちなみに河に面したところはだいたい一五〇〇メートル。

 よって丸っと囲うにかかる材料費は金貨一五〇枚くらい、か。


 ふむふむなるほど。バカげてんな。


 水路の舗装まで考えたら身代金がすべて吹き飛ぶ。が、考えようによっちゃあタダで作れると考えれなくもねぇと。それに節税にもなる……んんー……。


 他にもまだまだあるが、これ以上は読む必要なし。


「ベリル。さすがに全部はムリだ」

「ええ〜っ」

「とはいえ、水堀だけなら構わんぞ」

「いぇーい! だったら落っこちたら二度と地上に戻れないよーな、スッゴイの掘っちゃうぞーう!」

「まあ怖あい」


 んなもん掘った者が戻ってこれんだろうが。

 っとに、ちったぁ考えてから口を開いてほしいもんだ。



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あとがき


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             枝垂みかん

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