第23話 亀素材で道具づくり⑦

 あれこれ作るにしても材料が必要だ。

 それにベリルの助言に沿った鎧を作んのにも亀の革がいる。家畜の革で試してみたら、魔力が通らなかったからな。

 だから狩りにいったとき皮も剥いできて、ついでに放ったらかしにしてた甲羅なんかの素材も集めてきた。


 まだ見つけてねぇのもあるだろうが、何往復かしただけで倉庫が一杯だ。


 こんなに時間が取れたのも、実は魔法の槍を使ったから。

 ま、狩りに使うぶんにはいいだろ。ひっくり返す手間も省けたしな。

 だが、あの威力は思い出すだけで空恐ろしくなる。眉間に一発だ、一発。解体だってちょいちょいと穴を空けてやったら円滑に進んだ。


 それと活躍したのはもう一つある。亀の甲羅で作った荷車だ。

 こいつもベリル作。

 正確にはあいつが考えたっていうべきか。実際の作業は、自称小悪魔の手先と化した悪ガキどもがやらされたんだからな。


 いやぁ、しっかしこいつがまた便利でたまげた。デカい車輪なのもあってデコボコ道でもスイスイ進むし、なにより両輪が独立してんだよ。だからクルックル小回りが利く。


 そんなこんなで亀素材集めは効率が上がり、できた空き時間でシコシコとモノづくりした。



「へへっ。これで出来上がりだ」


 ようやく完成した鎧の出来栄えに、俺は自画自賛しちまう。そんくれぇ惚れ惚れするような仕上がりなんだ。


「なっ。どうだイエーロ?」

「おお! カッケェ!」

「そうだろそうだろっ。よっしゃ、女房と娘にも自慢してやろうじゃねぇか。ヒスイとベリルを呼んできてくれ。そのあいだに俺ぁこいつを着込んどくからよ」

「うん!」


 手狭になった倉庫兼作業場から、イエーロが駆け出してく。


 基本的な作りは、元から俺が使ってた革鎧を丸々真似た。ただ部位ごとの構造が違う。

 まず鱗ギッチリの亀皮を薄く鞣して二重にする。で、革と革のあいだに板状にした甲羅を挟む。その上から要所要所に爪を薄っぺらくした防御板を貼っつけたんだ。


 はじめは縫って作るつもりだったんだけど、これまたベリルの閃きで、甲羅の切れっ端を鋲にして留めた。

 一個一個の鋲をチマチマ作んのかって泣き入りそうだったが、


『細長いの作ってから短く切ればいーじゃん。んで通してからトンカチで潰せばよくなーい』


 なぁんて助言もあって、むしろ縫うよりも早くて楽だった。


 胴を着けて、後ろの革紐を締める。

 被るみてぇに肩周りも。

 上腕と肘、下腿と膝、こっちは甲羅の板をひん曲げて上から爪の素材を打ちつけた板を皮のベルトで留めた。


 全体的には濃淡まだらな砂色で、品のいい艶がかかった鱗柄。その上に、胸や腹の部位ごとで細かく区切った防御板が黒光りしてる。小手や脛当ても黒々してゴツい。

 最後に逆さまにした深皿みてぇな兜を被ったら、へへっ、装着完了。


「あらあなた、凛々しくて素敵ですよ」

「うはうは、父ちゃんめちゃくちゃカッコいいよ!」

「はっはっはっ! もっと言ってくれ」


 柄にもなく浮かれちまった。そんくらい満足いく出来なんだ。


「ねーねー、やっぱし角つけよーよー」


 これはずっとベリルが言ってきてること。なにが悲しくて大鬼種オーガの血ぃ引く俺が、偽物の角なんてつけなきゃなんねんだよ。


 ちなみに、うちの家族で角があんのは俺だけだ。

 

 自慢の角を隠しちまう兜は被らねぇ主義だったのに、女房を味方につけた娘があんまりしつこく言うから宗旨替えさせられちまった。

 いちおう、兜には穴が空いてて、そっからちょこんと覗いてんだけどよ。


「穴の部分に、イカちーのつけたらいーじゃーん」

「イヤだ。んなみっともねぇマネできるか!」

「マジ意味ふめーだし」


 わかってもらわなくて結構だ。


「父ちゃん、これ」


 イエーロが斧槍を渡してきた。


 こいつも亀素材を使った逸品で、飴色に磨かれた柄に白濁した半透明の穂先と斧がついてる。それを留める黒い口金と石突が、いい感じに厳しさと高級感を醸す。


 しっかしイエーロのやつ、ずいぶん器用なんだな。

 これらが売れるんなら、長男には傭兵以外の稼業をさせてもいいかもしねぇ。

 そういった意味でも、亀素材の利用を考えたベリルには感謝してる。


「こっちはあーしからー」

「おっ、どれどれ……。おい、なんだこりゃ」

「お面じゃーん。見たらわかるっしょー」


 わかるが、俺が聞いてんのはそっちじゃねぇ。あぁあぁ、どうして頬面をここまで邪悪なツラ構えにすんだよ。感謝して損した気分だ。


「ほらー、父ちゃんってめちゃ悪人ヅラじゃーん。仕事くれる人ビビらせたら悪いし。それで隠したらちっとは——」

「こっちの方がひどいわ!」


 お、俺ってそんなに悪い顔してんのか?

 いいっちゃいいんだが、なんとなく気になってヒスイの方を確認すると——プイ。

 おい、なぜそっぽ向く。嘘でも笑っとけ。


「で、でもさ父ちゃん、それ見たら敵はビビるって。それに顔も守れるしさ。俺はめちゃくちゃカッコいいと思うぜ」


 イエーロ……。俺の味方はおまえだけだ。

 次にいい実入りがあった暁には、オメェの土産に団子をいっぱい買ってきてやるからな。

 ぁあ? ベリルぶん? んなもんねぇよ。どうせ兄貴から巻き上げんだろ。

 

 

 家族にお披露目のあと練兵場までいったら、うちの連中にも大好評だった。


 つうことで我が息子イエーロよ。そのうち団子を買ってきてやっから人数分の斧槍と鱗鎧、よろしくな。

 悪ガキ共は好きに使って構わねぇからよ。

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