第21話 亀素材で道具づくり⑤

 こいつバカじゃねぇの!


 こんな物騒なモン作りやがって。武器だから相手をキズつけるための道具には違いねぇが、なんつうか、残酷すぎるっつうか猟奇的っつうかよぉ……。


 試作品ができたと呼ばれて検分してみりゃあ、娘のベリルが用意した魔法の槍とやらは、言ってたとおりに回転してる。よく見ねぇと穂先の輪郭すらハッキリわからねぇ速さでだ。


 ——キュイィィィィィィィン!


 どっから鳴ってるのか不明な甲高い音。聞いてるだけで背筋が凍りつく不快感がある。


「こんな感じー。いちおー、説明いる?」

「た、頼む」


 辿々しく構造を説明する二歳児……。


 仕組みについて話してるのはわかる。いちおう耳に入ってくるが、その殺傷力や残虐性を考えちまうと、ちっとも集中できねぇ。


「ねー、聞いてる?」

「お、おう。管槍みてぇにしてあんだろ。柄全体を軽くてしなる甲羅の部位で作って、穂先と石突は牙、持ち手の部品は爪、だろ」

「管槍? ん、そーそーそんな感じー。色合いもめちゃ考えたんだよねー。はじめは可愛くしよーとしたんだけどさー、兄ちゃんが弱そーってうっさくってー、んで普通に鉄とか使った槍にみえるよーに先っぽを白い牙にしたー。どーどー? よくね?」


 その槍は濃淡がマダラな飴色の柄に、黒光りする縄状の素材を巻き付けてこさえた持ち手が二箇所あり、穂先は透き通るような半透明の白い四角錐だった。

 その持ち手をベリルが掴みながら魔力を通すと——アホほど回ったんだ。


「こんなモンでぶっ刺されたらキズ口がズタズタだな……」

「てゆーか、ぽっかり穴あくんじゃね」


 ああ、そうだな。下手すりゃあ、いや、まず間違いなく金属鎧だって貫いて反対側まで突き抜けるだろうさ。


「よーし、試してみよー」

「——え、なにで⁉︎」


 ま、まさか革鎧着た俺じゃねぇよな。前にも『お腹にブスリ』とか言ってやがったし。


「んー、太い木とか? ガンバらなくても、貫通するってのがセールスポイントだし」


 よかったぁ……。俺、いちおうおまえの父ちゃんなんだな。こんなことでホッとするなんて思ってもみなかったぞ。


 いや、待て。


「なぁベリル。そいつはおまえ以外にも使えるのか?」

「つーか、あーしみたいなプリチーな幼児が使えたら誰でもつかえんじゃないのー」


 幼児がこんな凶悪なブツを作るかはこの際置いとくとして、素材を試してみて回るなんて特徴はなかったはずだ。

 そのまま疑問を伝えると、


「いや実際に回ってるし。螺旋にしてあるから回れって思えば回転すんじゃね? 魔法ってそーじゃーん」


 だとさ。いったいヒスイは、こいつにどんな教育をしたんだか。空恐ろしくなるな。


 そして俺らは広場に向かう。

 隅に生えてる幹が犠牲者だ。穴開けたら枯れちまわないか心配だったが、俺に向けられるよりはよっぽどいい。


「あーしやってもいーけど、父ちゃんやってみる?」

「ん、ああ」


 運んできたのは俺だから、そのまんま幹を突けば試せるんだが、どう考えても回るとは思えない。

 持ち手が緩いなんてこともねぇし、ガッチリ柄に食い込んでるようにすら感じる。


「まずは、普通に突いてみるな」

「ほーい」


 しっかり構えてみると、軽い。だが魔力を込めると要所要所に具合いい重みが生まれる。そして突き込むと——ふお! ずいぶん深く刺さったな。これだけで充分じゃねぇか? 振り下ろしも問題なさそうだし。

 でも、問題の回るかどうかも試さないとだな。


「あ、父ちゃん。そのまんまだと大変かもー」

「ん? そうなのか?」

「なんつーの、回転しながら削る感じだし」


 作ったヤツが言うならそうなんだろう。一度抜いてから、抜いてから……どうすんだよ?


「それじゃ魔法たんなーい。もっとキュイィィィィィィィッてイメージすんの、ほれほれやってみー」

「どら……ほい!」


 気合いを入れて穂先が回るように集中すると、おう、回った回った。クルクルーッて具合に。

 ……でも、なんかベリルがやったのと違うな。


「なんかしょぼーい」

「たしかに」


 言われたとおりクルクルとは回ってる。が、ベリルがやったみたいにはなってない。明らかに回転が遅い。


「なんかコツとかねぇのか?」

「んん〜、その黒いとこのグルグルを意識したらー。せっかく巻いて巻いて螺旋にしてあんだからさー」


 滑り止めかと思ったら、そんな意図があったのか。それでも回るとは思えねぇが。いや、信じるんだ。実際にベリルはやってんだし、魔法はできると信じ込むのが肝要だ!


「ふぬっ、ぬぬぬぬぬ、くぉおおおおおおお!」


 魔力を目一杯、思いっきりぶち込んでやった。すると——キュイィィィィィィィ! お、お、おお! 回ったぞ!


「父ちゃん、そのまんまそのまんまっ。木にブスーッて!」

「おう!」


 ベリルに急かされるまま幹を突くと、おいおいウソだろ! 霞んなかに槍を突っ込んでるみてぇに、なんの抵抗もなく突き抜けやがった。


「おおー。せーこーせーこー。大成功じゃーん」 


 たしかにスゲェ武器だ。だがよ……。


「おまえ、こんなヤバいモン売るつもりなのか? これ、たぶんフルプレートでも簡単にぶち抜くぞ。俺ぁこんな物騒な得物を持ったヤツとやり合うなんてごめんだっ」

「……ん?」


 おい、首傾げてんじゃねぇよ。


「あ、そっかそっか。てへへ。ちゃーんと父ちゃんに効くかどーか試してからじゃないと危なくて売れないねー」

「——俺に試す時点で危ねぇわ!」


 わかってんのかわかってねぇのか、ベリルは「またまたー謙遜とかいらねーし」などとほざいてやがった。

 どんだけ俺が丈夫だと思ってんだ、こいつは。

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