第20話 亀素材で道具づくり④

 さすがに四六時中うちのガキ共ばかりを構ってるわけにはいかない。俺だってそこそこ忙しくしてるんだ。


 依頼について手紙でやり取りとか請求や給金の精算などなど、山ほど書類仕事もある。それと、傭兵稼業なら怠っちゃあマズいのが調練だ。


 個人個人の力量を増してくのも大事だが、息を合わせて互いを補う動きをするのが生き残るために一番大切なことだってのを、口酸っぱく教えてかなきゃなんねぇ。もちろん身体にも叩き込む。


 そんな訓練の最中、亀素材を使った道具作りの閃きが得られた。

 キッカケは——


「革鎧ってよ、油塗りこんで汗も染みて、うぇぇ……。鼻がひん曲がりそうだよな」

「ああ。しかもよ、旦那直伝の魔法がありゃあ、着てる意味あんまねぇしな」


 なんてことない革鎧についての新米たちの愚痴だ。


「おうおうオメェら、面白そうな話してんじゃねぇか」


「「「あ、旦那。こんちわー」」」


「おう、こんちわ。で、革鎧はやっぱ邪魔か?」

「いやぁぁ、ちっと重たいくらいで邪魔ってこたぁないんですがね……」

「革鎧突き抜けた穂先を、旦那直伝のカッチカチになる魔法で止めるじゃないっすかぁ。だったら着てても意味ないんじゃねぇかと思いやして……」


 そのへんは俺もわかってる。そもそも大鬼種オーガの血を引く俺らに、こんな牛だか豚だかの革鎧なんて意味がない。いや多少の足しにはなるかもしれねぇけど、魔力で固めた筋肉があれば事足りる。

 ならなんで、そんなモンを着てるかっていえば、見栄えがいいから。

 腰巻き一丁の野蛮な兵より、曲がりなりにも鎧を纏ってる方が強そうだろ。

 結局、見積り作るときも追加報酬もらうときも、見た目で判断される。だから少しでも高く売るために安モンでも革鎧は着させてるってわけだ。


 しっかし聞いてみるもんだな。こりゃあ、あの素材で鎧を作ってみてもいいかもしれん。

 軽くて硬いだろうから働きも良くなるだうし、間接的にだが収入も増える。なにより怪我する者も減る。

 使ってみせて丈夫さを証明して、あとは見てくれさえ良く作りぁ高値で売れるかもしれねぇ。


「あ、あの旦那。生意気言ってすいやせんでした」

「先輩たちから革鎧着る理由はしっかり聞いてるんで。なんでピカピカになるように怠けないで磨いてますから」

「おお、謝んな謝んな。べつに怒っちゃいねぇ。つうか要望ってのはあってもいいんだ。こっちも無理なモンは無理って言うからよ。いやぁ参考になったぜ。いい話聞かせてもらった」


「「へ、へい」」


 気ぃ使わせちまったぶんなるべく朗らかに「訓練つづきガンバれよ」と告げて、俺は家に戻った。

 で、戻ったら戻ったで俺はすぐに机に向かって頭を捻らせた。



「ん? 父ちゃん鎧つくんのー?」

「おうベリルか。ああ、これなぁ。はじめて作るにしちゃあ大物だとは思うんだけどよ」

「ふーむ。ふむふむ」

「……おまえ、鎧のこともわかるのか?」

「んーん。ぜんぜーん」


 だろうな。危うくズッコケそうになったが、安心もしたぞ。


 だが、ベリルはわからないと言いつつも俺の手元にある紙を覗いてくる。こういうとき、こいつは面白れぇことを言ってのけるんだ。


「これさー、一枚で作る必要なくなーい」

「そうかもしれねぇがよ、あんまり細かく縫うと、そこからバラけちまうだろ」

「違くてー。んん〜と、革の鎧はそのまんまにしてー、革と革のあいだに甲羅の板を挟んだりー、上から爪を薄くしたの貼ったらどーかなーって」


 おおっ、その手があったか。でも待てよ。


「そうやって作ったとして、魔力は滞りなく通るのか?」

「そんなんあーしがわかるわけないじゃーん」


 だよな。普通の革鎧で試してみて、ダメだった場合は亀狩ったときに皮も引っぺがしてこないとか。


「んで、ベリルはどんなの作るつもりなんだ。いい閃きはあったか?」

「ひししっ。めちゃスゴイからっ」


 だからそれがどんなモンか聞いてんだが。勿体ぶらずにさっさと言え。


「んふふ〜。なんと魔法の槍ぃ!」

「魔法の槍……。そりゃあ火でも吹くのかい」

「火ぃ吹くなら普通に魔法使えばよくなーい。それじゃぜんぜん意味ないしー」


 お、おう。いやいや接近戦で不意をつけたりとかいろいろありそうじゃねぇか。でもたしかに、言われてみればあんまり意味ないわな。


「ならどんな魔法の槍なんだよ?」

「とにかくスッゲェし。マジ回転すっから、めちゃドリルだし」

「は?」

「だーかーらー、先っちょがキュイーンッて回んのっ。ホントは先だけじゃなんだけど、めっちゃ回ってズビビッて貫通すっから」


 ちっとも想像できねぇ。なんだそのケッタイな槍は。槍が回って意味あんのかよ。

 こりゃあ見てみないとなんともだな。


「その魔法の槍とやらは見れるとこまで出来上がってんのか?」

「もうちょい。部品多くってさー、加工すんのたいへーん」

「手伝うか?」

「大丈夫。兄ちゃんと、ホーローだっけ? 兄ちゃんの友達にやらせてるし」


 ……やらせてるとか言うなよ。言葉を選べ。どうせ算数教えてるときに掴んだ弱味ちらつかせてやらせてんだろ。

 性根の悪ぃ女だ。ああ、こういうときこそ言ってやらないとな。


「ホント、ベリルは小悪魔だな」

「うん。あーし、めっちゃ小悪魔だし」


 ひいこら作業を押しつけられてるイエーロたちの努力がムダになんないモノが出来上がるといいな。これで仕上がった槍がしょうもなければ可哀想すぎるからよ。


「んじゃ、試作品できたら教えるねー」

「おう、待ってるわ」


 俺も革鎧に仕込むって観点で、もう一度練り直すとするか。


 多少の整備や修理をしたことはあっても、一からってなるとなかなか難しいもんだ。まぁこれもいい経験。やっといて損はねぇ。

 それに、ガキ共もうちの連中もあっと驚かせたいし、せいぜいカッコいい鎧に仕立てねぇとな。

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