第19話 亀素材で道具づくり③
よくもまぁ怒りもせずにオツムが足りねぇイエーロに付き合ってんな。ベリルのこと、少し見直したぞ。
「えっとねー、だからなんに使うのかわかりやすくしてー、加工貿易っつーかー、そのまんま売るより付加価値?だっけ、そーゆーのついて高くなるんだってー」
「だから手間かかるぶんだろ。だったら甲羅をもっと取りに行ったほうがいいじゃんか」
実はイエーロにも感心してる。よく、ちんまい妹に生意気言われて堪えてんなってよ。怒鳴りつけて黙らせないとこは俺の評価高いぜ。
「もー書くし。めっちゃ書くから!」
つってベリルが地面になにやら書きはじめた。ほうほう。左っ側が項目で、右っ側が金額か。んで、金額の前に横棒一本と十字……。加算と減算の記号か。
「ほらほら、加工してからの方がお金儲けられてんじゃーん」
「むむむ、んむむ……」
イエーロのやつ、難しい顔で頭抱えやがって。こんなの足して引いただけだろうが。数字が多くて混乱してんのか?
しゃあねぇ、ちょっくら口挟むか。
「ベリル。おまえが言いたいのは材料売るときと加工するときで、二回利益が出るってことだろ」
「そーそー、それ。父ちゃん大せーかーい!」
なら最初からそう言ってやれよ。
あと息子よ、こんくれぇでそこまで目ぇキラッキラさせて尊敬の眼差しを向けてくれるな。情けなくなってくんぞ。
「でもよぉベリル、利点はそれだけか?」
答えがあるならよし。なければ、これを親父のこと見直す機会にしてやろう。
「値切られない、とか⁇」
「それじゃあ足んねぇな」
「んん〜、ちょい待って。わかるし。あーしジェーケーだし、高校生だから、こんくらい楽勝だし。えっとー、えっとー……んん〜……」
ベリルだけじゃなく、兄貴の方も諦めないで頭捻ってやがる。それでいい。イエーロのそういう素直なとこは美点だと思うぞ。ロクな答えが出ないにしてもな。
いいね。いつまででも待ってやれる気分だ。
商売人はどう考える? どんなヤツが買うんだ? これを持ったらどんないいことがある? ほれほれ、考えることはいっぱいあんぞ。
「父ちゃん、ヒント」
「ヒント? ああ、答えの足掛かりか。そりゃあ難しいな」
「ケチケチー! もったいぶんないでー、おーしーえーてーよー」
「いやいや、そんなんじゃねぇって。この件の正解はよ、たぶん山ほどある。だから俺が気づいたのはほんの一部だ。それでいいなら話してやろう」
「はーい。教えてプリーズ」
「オレも聞きたい!」
で、説明したわけだが、予想どおりだ。ベリルはすぐに理解して『はじめっからわかってたし』ってツラで、イエーロはあの手この手でようやく腹落ちってとこだ。
なかなか骨だったが有意義な疲れで、これはこれで悪くない。
「ええっとつまり、大きさとか重さ関係なく、こっちが値段を決められるってこと、で合ってる?」
「そんなところだ」
「たしかに作る物によって値段変わるし、小っちゃいのでも高く売れる場合もあるもんねー。いやー、マジ父ちゃん悪どい!」
悪どかねぁよ! 普通のことだろうがっ。
「あとよ、このまま卸しちまうってのもありっちゃありなんだが、」
「ね、ね、ね。それダメな理由、あーしが言っちゃっていーい?」
「ほう」
「え、ダメなの!」
「めっちゃ簡単だし。なんの素材で作ったか内緒にするために決まってんじゃーん!」
…………ん? ああ、そういう考え方もあるのか。俺ぁ切り出してからの方が輸送の手間が減るって考えてたんだが、ふむ、たしかに入手先を秘密にしとくってのもいいかもな。
誰でも知ってるような素材なら、むしろ出所を明らかにしちまった方が利点が大きいが、甲羅も爪も牙も、亀素材の有益さを考えりゃあ黙っておいた方が価値がつくかもしれねぇ。加工しちまえば早々バレることもないだろうしな。
「せ、正解だ。やるじゃねぇか、ベリル」
「えへへー。でしょでしょ。でもさー、最初っからわかってた父ちゃんの方がヤバいってー。マジ見直しちったー」
「おいベリル、あんまり見くびってくれるなよ。俺の商売がなにかわかってて言ってのか?」
うわ、俺ってスゲェ恥知らずだな。でも娘に、しかも二歳児に弱味みせるような親父じゃあダメだ。ここは恥を忍んででも強がんなきゃなんねぇ!
「傭兵だっけ。戦争とか、あーしよくわかんないし」
「なに言ってんだ。父ちゃんはスゲェ強ぇんだぞ」
「だからさー、その強いのと商売ってのが繋がんないなーって。なんつーか『欲しいモンは全部奪っちまえ』みたいな感じじゃーん」
おまえは俺をどんな無法者だと思ってんだ。いや、もちろん乱取りくらいはするけどもよぉ。でもあれには難癖に近くても大義名分があんだからなっ。
「傭兵一人ひとりの戦力を売りモンだと考えろ。貰う報酬の交渉もあれば、払う報酬も考えなきゃなんねぇ。メシとか足代とか必要経費も嵩む。でだ、戦利品を売ることもあれば、装備を整えるために買う必要もある。倉庫の手伝いしてるイエーロは、武器とか道具をキレイにしといた方が高く売れるのはわかってんだろ」
「うん」
「そういうのをやってれば、多少は商売についての心得も身につくってもんだ」
おいおい拍手とかやめてくれ。大したことは言ってねぇから。ったく、これだからガキは。
「それって派遣みたいな感じー? ふむふむ、なーる。てことは、父ちゃんの仕事は労働力の搾取なんだねー。ひひっ。マジ悪ぅ〜」
オメェの口が一番悪いわ!
「ゴーブレんとこもブロンセんとこも飢えてねぇだろ。キッチリ分前は渡してんぞ。じゃなきゃあ荒くれ共をまとめられるわけねぇだろうが」
「そっかそっか。そーだよねー。あんましケチケチしてると、後ろからブスッてやられちゃうかもだしー」
おいおいベリル、あんまり滅多なことを言わないでくれよな。頼むから。
だ、大丈夫だとは思うが、念のためだ。近いうち、いまの分前で満足してくれてるかそれとなく確かめておこう。うん。そうしよう。
「とにかく、ある程度の素材の特徴はわかった。次はいろいろと作ってみんぞ」
「「おーう!」」
加工の手順さえわかっちまえば、あとはこいつらの好きにやらせても大丈夫だろ。
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