第18話 亀素材で道具づくり②
甲羅を持ち帰ってから数日後——
さっそく削ってみたいと言ってきたから、甲羅の一部を切り出してみた。
硬くて厄介だった甲羅も、仕留めたあとは分厚めの刃物なら刃が通るくらいになる。
だから簡単にバラせるんだが、狩るときからこんくらいの硬さなら楽でいいんだけどな、などと詮無いことも考えちまう。
ガリガリ、ゴシゴシ。手のひら大にした甲羅をヤスリで削ってやると……。
「ふわわ〜っ。めっちゃキレーじゃーん」
「ほう。こいつを磨いたら、いいとこの娘さんたちも欲しがるかもしれねぇな」
「ねぇねぇ、これで櫛とか髪留めとか作ろうよ」
三者三様だが、最後のイエーロだけは趣きが違うように聞こえた。
「ひひっ。ねーねー兄ちゃーん。こーゆーのプレゼントしたら、ブロンセの妹ちゃんの気ぃ引けんじゃね」
「オ、オレ、そんなこと言ってないからなっ。うう、売れそうだって、金になるって話をしてるんだぞっ」
「はいはい、わかってるってー」
ベリルのやつ、楽しそうに兄貴イジりしてやがって。ったく。
しかしこいつぁいい。
飴色っていえばいいのか宝石とは違った濁った透明感があって、それがいい味を醸してる。
しかも見た目より軽いから石で作った飾りモンより使い勝手がいいかもしれねぇ。
「じゃあ、櫛あたりからやってみっか」
見本が必要だろうとヒスイの持ちモンを借りに行こうとしたら、クイクイッてベリルに引き留められた。
「父ちゃん、これ柔すぎない?」
「そうか? 櫛とか髪留めなら充分だろ」
「そーじゃなくってー……」
聞くと、どうもベリルは硬さが変わる理由が気になるんだそうだ。
こないだの亀とやり合ったときにベリルがピーピー泣きながらも頭を引っ込めなかったのは、台所で使ってるみたいな肉を切る魔法をぶつけて俺らを援護をしようとしてたって話で、でもガンバってみたが甲羅には魔法の刃は通らなかったとのこと。
けどいまは、サクサクまではいかないまでも切れないこともないらしい。
「……だから、なんかしら硬さが変わるワケがあるかもってベリルは考えたわけか」
「そーそー。炙ったら硬くなるとか、蒸して圧縮とか、金槌でめっちゃ叩くとか、ファンタジー的には魔法に反応してーなんてのもいろいろありそーじゃーん」
「だったらスゲェよな。ねー父ちゃん、やってみようよ!」
イエーロは武具が作れる可能性を聞いて漲ってやがる。へへっ。男児ならそうこなくっちゃな。
「よっしゃ、あれこれやってみるか」
「「おーう!」」
◇
で、試してみた。
もう俺ぁくったくただ……。
ちっとばかし俺はベリルのことを嘗めてたかもしれねぇ。あ、いやいや知恵の巡りとかって話じゃなくってよ、あいつの人使いの荒さに恐れ入ったんだ。
例をあげると、スンゲェ長い時間、それこそ半日以上蒸してから重しを乗せて圧を加えながら乾かす、とか。
くっそ蒸し暑ぃし、乾かしてるあいだは放置じゃねぇ。俺が付きっきりで煽がにゃならん。
あんまりにアホらしくって、
「おいベリル、これなんか意味あんのか?」
と聞けば、
「あるあるー。木材を圧縮して丈夫にしたりすんのとか、見たことあるしー」
などとほざく。
さすがに「どこで見たんだ?」と俺も聞かざるを得ない。じゃないと納得いかん。
「寝る前にネットでなんとなくー。作業してる動画とかって見てるとめっちゃ眠くなるしー」
だとよ。ネット? なんだそりゃ。寝るときゃベッドだろうが。
いまにはじまったことじゃねぇが、ベリルはいったいなにを見てモノを言ってんのやら。
つっても、なんだか知らねぇが説得力はあるんだよな。説明はバカっぽいけど。だから俺もヒスイも好きにさせてるわけだが、それにしたって今回のコキ使われ方は堪えた。
でだ。しんどい思いした甲斐もあって、ある程度のことがわかった。
「ヤバいヤバいめっちゃヤバーい」
「ヤバくはねぇだろ。スゲェけどよ」
「だからヤバいんだってー」
ベリルの口から特性の説明を待っててもヤバいしか言わねぇから、こっちでまとめちまうと、こうだ。
まず、甲羅。
見た目より軽いのは端っからわかってたんだが、こいつぁ魔力を流し込んだら粘りと弾力が出るって特性もあった。金槌で叩いてみても、まったく手応えが返ってこねぇんだから驚きだ。あと若干曲がる。
加工も楽で、じっくり炙ってから整えてやればカタチも簡単に変えられる。が、火にかけすぎると脆くなって割れちまうから注意が必要だ。
んで、牙と爪。
こっちはこっちで、とんでもねぇ素材だった。魔力を流してやると硬くて重くなる。鉈に振り下ろして試してみたら——カキーンってな具合に硬質な音が鳴るくらいだ。しかも鉈の刃がヘコんでた。
だが、加工は甲羅より面倒で、あのくっそ手間がかかる蒸して圧縮って手順を踏まないとならねぇ。
何度か試してみてわかったんだが、蒸す前に切ったりすると端からペキペキ簡単に砕けてっちまう。でも蒸して圧縮したら薄くなっても頑丈になって、いちおう研ぐこともできるようだ。
牙と爪の違いは、まだ色違いなことくらいしかわかってねぇ。
「これ売ったら金持ちだよ、父ちゃん!」
「そうだな」
「なに言ってんのさー。このまま売るとかありえないしっ」
「なんでだよ」
俺もベリルの意見に賛成だ。けど、どんな理由でなのか。イエーロになんて説明すっか。
ここは高みの見物といこうじゃねぇか。
「んなもん決まってるし。加工してから売った方が高くなんじゃーん」
「手間賃とか考えたら変わんないだろ」
「ちっちっちっ、兄ちゃんわかってないなー」
「なんか腹立つから、その顔やめろ」
これについては同感だ。
「失礼しちゃーう。あーしこーんなに可愛いのにー」
「おいベリル。いまは加工してから売った方がいいワケを話してたんだろうが。話それてんぞ」
「あ、そーだったそーだった。んと手間賃を考えても得しそーなんだけどさー、兄ちゃんはどーやってこの素材を売り込むつもりなん?」
「え、そんなのスゲェって説明すればいいんだろ」
おうおう、面白れぇ展開になってきたじゃねぇか。どっちの肩も持つ気はねぇが、親父として、どう落ち着くのかは見届けてやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます