第一章 亀素材で道具づくり
第17話 亀素材で道具づくり①
反省は反省として、腹が減るのは別問題だ。
おうおう、俺とおんなじようなこと考えるヤツが二人もいやがるぞ。やっぱり親子だから似ちまうのか?
夜も深い時間。ヒスイが寝息たてるのを見計らって台所に忍び込んだら、ちんまいのと図体だけデカくなったのが食いモンを漁ってた。
「なんかすぐ食えそうなモンあったか?」
「「————ひ⁉︎ なんだ父ちゃんかー」」
なんだとはご挨拶だな。
「もー、脅かさないでくんなーい」
「ホント。めちゃくちゃビビった」
「んなこたぁいいからよ、なんかいいモンあったんか?」
「んーんーなんもー。いま探してるとこー」
「な、なぁベリル、やっぱりやめないか?」
「なんでさー。あーしめちゃ腹ぺこだしっ」
ああ、なるほどな。イエーロの言いたいことはわかった。おおかたヒスイにバレたらまた叱られるとでも思ったんだろ。
ったく、息子も娘も、母ちゃんのことなんにもわかってねんだな。
「たぶんな、ここにいいモンがあんぞ」
俺はベリルでも届く棚に手を伸ばした。んで、いくつか食器をずらしてやると……ほらあった。
「お団子?」
「おお、スゲェ美味そう!」
「しっ! イエーロ、声がデケェぞ」
「あ、ごめん」
ったく。これ、砂糖も穀物の粉も使ってるから高ぇんだよなぁ。とんだ贅沢品だが、今日みたいな日に食ったらめちゃくちゃ美味ぇに決まってる。
「よし、ちょうど三つあんな。俺らでこっそり食っちまうか」
「くひひっ。ママ、これ楽しみしてたんじゃないのー。あとでバレたら怒られそーじゃーん」
なぁんて言いつつベリルは食う気満々じゃねぇか。つうか、むしろ母ちゃんが楽しみしてるモンをこっそり食ってやるって意地汚さがありあり顔に表れてんぞ。
そもそも三つって時点で察しろよ、っとに。
「ベリル、オレと半分こしようぜ。そしたら母ちゃんのぶん残しておけるだろ」
「ええー。父ちゃんと分けてー。あーし育ち盛り、めっちゃ栄養必要。おっけー?」
「なにわけわかんねぇことほざいてやがんだ。イエーロもみみっちいこと言うな。こういうのはな、バレねぇうちに全部食っちまうのが一番だ。覚えとけ」
「お、おう」
「ひひっ。ではでは〜っ、いっただきまーす」
ベリルは両手で団子を掴むと、あむっといい食いっぷりだ。それに釣られたイエーロも美味そうに食ってやがる。
二人が食い終わるのを見計らって、俺はちょっとした意地悪をすることにした。
「まだ食えるんなら俺のぶんも食うか?」
「え、いいの!」
「なになに父ちゃーん。いまさら善人ぶっても父ちゃんが性格悪いのあーし知ってるしー」
「ベリルはいらねぇんだな」
「いるいるいるってばー。もー、冗談だってーの。父ちゃんだーい好きっ」
「うっせ。調子いいこと言うなっ。いいから、オメェらで上手いこと半分に千切って分けて食え」
と渡してやって、へっへっへっ、これで仕込みは万全だ。よしよし仲良く二人で分けたな。
さぁて、どっちもペロッと食い終わったみてぇだし、そろそろか。
「これで、隠してあった団子を盗み食いした犯人はオメェら二人だけだ。俺ぁ無関係だからよ」
「「——は!」」
なに鼻まで膨らませて驚いてやがんだ。あったりめぇだろうが。へへっ。明日怒られんのはこいつらだけ……なんてな。
「とと、父ちゃん、嵌めたなっ」
「うっわー、マジひどーい。あーし、父ちゃんはひでー悪人ヅラだけどほんのちょっぴりだけ優しーかもってちびっとだけ見直そーと思ったのにー」
おうおうベリル。テメェは日頃から親父をどういう目で見てやがんだ。しかも見直そうと思っただぁあ? ったく、役人みてぇな曖昧な口ききやがって。
「へへっ、もう食っちまったモンはしかたねぇな」
「ゔう、また母ちゃん怒られちゃう」
「ねー。ママおっとりさんなのに、キレっとめちゃおっかねーしー。バレたら父ちゃんに唆されたって言いつけちゃうかんねっ、道連れだしっ」
「そうかい。でもよ、美味かったろ?」
「「うん!」」
「なら、腹が膨れてるうちに寝ちまえ」
ガキ共を寝床に放り込んだし、俺もそろそろ寝るとするかねぇ。
軽く一杯ひっかけたいところだが、こっちに限っちゃあヒスイにキッチリ説教されちまうな。親父はガマンガマン、と。
◇
翌日、俺ら三人はガツガツ朝メシを食ったあと、倉庫にやってきた。
ちなみに、団子についてヒスイはなんも触れず、イエーロもベリルもあんだけ怒られんの心配してたくせに寝たらぜんぶ忘れちまったらしい。二人とも便利な頭の作りしやがってからに。
さて、せっかく持ち帰った甲羅だが……。
「で、こいつをどうすんだ?」
「いきなし聞かれてもわかんないしー」
「なんだ、ベッコーとやらが取れるって話だったろ」
「たぶん削ったら出てくると思うんだけど……」
あやふやな答えしやがって。まぁ端っからそんなもんだとは思ってたけどよ。
「チビるくらい怖い思いして、おっかねぇ母ちゃんに叱られてまで手に入れた甲羅だ。納得いくまであれこれ試してみたらいいさ」
「やってみる!」
「オレも牙とか弄ってみていい?」
「おう。好きにやれ」
と、丸投げしちまおうと思ったが、怪我でもされちゃあまた俺がヒスイに詰められちまう。
「どこをどうやって試すのか、いったんそのあたりの考えをまとめろ。弄りまわすのはそのあとだ。俺も頭捻ってみるからよ」
「ふむふむ。実験内容を先に決めるーってことかー。そーだね。そーしないとなにしたかわかんなくなっちゃうし。うん。やっぱし父ちゃん頭いーかも」
だからよぉ、二歳児に頭いいとか言われたくないんだって。あとな、そういうところまで考え及んでなかったぞ、俺ぁ。
「おまえらだけに任せておくなんて危なっかしいマネできるか」
「ああー。またママに怒られちゃうもんねー」
わかってるならいちいち言うな。俺が女房の尻に敷かれてるみてぇだろうが。
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