第10話 美女勇者とチャラい勇者の合コン⑦
「お前、また嘘付いてやがるだろ?」
俺は感情を押さえ切れず、ゼンツに静かに言葉を漏らす。
「何だと! 誰が嘘付いてるだと! 文句あるのか!」
ゼンツは立ち上がり、睨みながら俺を見下ろす。今にも殴り掛かろうかという勢いだ。
そうやって必死で否定するから嘘ってバレるんだよ。俺は冷たい視線を送り、奴の挑発を聞き流す。
「ちょっと、止めてよ! いい加減にしなさい!」
俺と奴の間に座っているカナルが、強い口調でゼンツを叱る。ゼンツはチッと舌打ちをすると、眉間にシワを寄せ、静かに席に座る。
相変わらずゼンツは俺を睨んで来る。バカな奴だなと俺は相手にしない。
さすがにカナルも、このゼンツの態度に不快感を示している。完全にこの男、彼女に嫌われたなと俺は笑みを浮かべる。
ゼンツはまた懲りずに、カナルにアタックしていく。ホントにバカな男だと可哀想になってくる。
「なぁ、俺と一緒にパーティー組もうぜ。強い男がいた方がいいだろ?な、俺にしろって」
ゼンツの言葉に、カナルはかなりウンザリしているみたいだ。
「ゴメンナサイ。私、バカな男って嫌いなの。もう、話し掛けないで」
突き放すように、カナルはゼンツに言葉を浴びせる。ゼンツは一瞬怯んだが、再びカナルを口説こうと話し掛ける。
「悪かったよ。もう、怒鳴ったりしないから、機嫌直してよ。さ、飲み直そうぜ」
「だから、話し掛けないでって言ってるでしょ!」
カナルはゼンツからそっぽを向く。終わったな、死刑宣告をされたな、俺は愚かな男を鼻で笑う。
と言う事は、このカナル争奪戦は俺の勝利だ。やった、この美女と今日一緒に帰れるぞと、俺はテーブルの下でギュッと拳を握る。
俺は妄想モードに突入する。カナルと一緒に冒険する映像が浮かんでくる。そして、もっと仲良くなって、二人で食事に行ったり、デートを楽しむのだ。そして、そして、あんな事やこんな事を……。
ヤバい、鼻血が出そうになる。俺はすっと鼻を押さえる。
「そんな事言うなよ。な、いいだろ? あんな弱そうな剣士ほっといて、俺のモノになれって。悪いようにしないぜ」
ゼンツがカナルの腕を強引に掴む。俺はそれを見て立ち上がり、カナルを助けようとする。俺の女に何をするんだ。俺は危なくバカな事を叫びそうになるのを堪える。
「私、彼氏がいるのよ。あんたみたいなバカじゃない賢い彼氏がね。だから、触らないで!」
「へ……」
カナルの言葉に、俺とゼンツの動きが止まる。いや、動きというよりも、むしろ時が止まったという表現が正しいかもしれない。
俺の頭の中が真っ白になる。言葉の意味が理解出来ない。俺の思考は、違う世界へと旅立ってしまう。
彼氏って何……。
俺よりも先にゼンツの方が、現実世界に戻って来たようだ。立ち上がって、怒りの感情を吐き出す。
「てめえ、彼氏だと! ふざけんな! 合コン規約違反だ! 退席しろ!」
ゼンツの罵声が、カナルに浴びせられる。カナルはそれをプイと無視し、変わりにカナルの相棒のミツーが怒りをあらわにし、立ち上がる。
「勘違いしてんのは、あんた達じゃない! 下心丸出しの男達が悪いのよ! それに、カナルは合コン規約違反はしてないわ」
違反してないだと、その言葉で意識を取り戻し、俺は叫んでいるミツーの方を向く。
「合コン規約には、恋人、配偶者がいても、合コンに参加しても構わないとあるわ。だって、ギルドが奨励してるのは、パーティーのメンバー募集や情報交換なのよ。分かった? おバカさん達」
ゼンツは渋い顔をし、ガックリと力なく席に座る。まるで屍のようだ。恐らく俺も他人から見れば、そういう風に見えたのかもしれない。
俺はカナルの方をチラリと見る。カナルはそれを感じたのか、申し訳なさそうな顔で真っ直ぐ前を見ている。
嘘だろ、嘘だと言ってくれ。俺はゴール直前で崖から突き落とされた様な気分になる。
何も考えられねぇよ。俺はただ席に座って、呆然としてる事しか出来なかった。
そして、合コンの終了の時間になる。衝撃のカミングアウトから、俺は誰とも一言も話さずに終了を迎えてしまった。
目の前でネッズとターンがイチャイチャして、一緒に帰る準備をしている。
カナルが気まずい空気の中、素っ気ない挨拶を俺にして来る。
俺は、サヨナラ、またねと言い酒場スイケンを後にする。
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