第9話 美女勇者とチャラい勇者の合コン⑥
もう一度、席替えを終えた新たなメンバーの配置を俺は整理してみる。
店のカウンター側の配置は、左側からこうなる。
俺、美女勇者カナル、チャラい勇者ゼンツ、女性魔法使いシノだ。
逆側、俺の対面側は左側からの配置は、こうだ。
ポニーテール美女のネッズ、イケメン魔法使いターン、女戦士ミツー、ゼンツの弟分のイルノだ。
つまり、自分を取り巻く環境で言えば、俺は左端に位置し、狙いの美女カナルが俺の右隣にいる。正面は美女のネッズがいる。
美女に囲まれるという、最高の環境に俺はいるが、正面の美女ネッズには、もう手は出せない。イケメンのターンが、ほぼ手中に収めている。
逆を言えば、ターンもカナルには、手を出してこない。必然的にゼンツとの一騎討ちになる。
席が変わり、合コンメンバーは、しばらくキョロキョロと辺りを見回している。席が変わるという事は、環境が変わると言う事なのだ。落ち着かない人間も何人かいる。
だが、俺の斜め前のターンは一貫して、態度が変わらない。ネッズとの会話を自然体で盛り上げている。今度、二人で遊びに行かないかと言う話まで進んでいる。
かなりの猛者だ。――――いけない、気にしてはいけない。
向こうの事はもう、俺とは別世界なのだ。俺にはもう、どうこう出来ないのだ。俺も目の前の任務に集中しなければ。
そう、俺はカナルを彼女にしたいのだ。彼女と恋がしたいのだ。その為に俺は、彼女との会話を進める必要があるのだ。
俺は葡萄ジュースを一口含み、横のカナルに声を掛ける。失敗はもう許されない。
「今度、カナルさんのパーティーに入れてよ。一緒に冒険しようよ。剣の腕なら俺、かなり自信があるから」
「あー、今、私の所は回復士が欲しいのよ。他のメンバーは足りてるんだ。同じパーティーのミツーも言ってたと思うけど……。サークは回復魔法使えるの?」
「あ、俺ムリ。魔法とか一切使えない」
そうなのだ。俺は大魔王を一人で倒す程の剣豪だが、魔法は一切使えない。いや、必要ないから覚えようと思わなかったのだ。だって、大魔王の戦いの時も無傷だったし。だから、ポーションすら持っていない。
「だから、剣を振るしか脳のないおバカさんは困るんだよな。俺は回復魔法使えるぜ。そんなバカ相手にしないで、俺と話しようぜ、ベイビー」
ここぞとばかりに、チャラい勇者ゼンツが会話に割り込んで来る。俺はバカにされたことに腹を立て、奴を睨み付ける。
「いや、どうせ貴方は初級の回復魔法くらいしか出来ないんでしょ?」
カナルが冷たい視線をゼンツに浴びせる。そうだ、この子は俺の味方なんだ、俺はもっと冷たくしてやれと応援する。しかし、ゼンツは余裕の表情を見せ、カナルに受け答えする。
「回復魔法は得意なんでね。中級クラスまでは使えるぜ」
「へぇ、ホントに? 意外だね。ちょっと詳しい話、聞かせてよ」
カナルのゼンツに対する表情が変わる。え、そんな、俺の事は、どうするんですか。風向きが変わった事に俺は焦り出す。
「元々回復士だったんだけど、剣もなかなか腕が立つんで、勇者に転職したんだ。やっぱ、才能のある奴は何でも出来るんだよ」
ゼンツは自信満々で、カナルにアピールしている。カナルも面白そうに笑顔で聞いている。二人の話が盛り上がっている。俺はその光景を視界に捉え、呆然とする。
逆転されたのか。いや、まだだ。俺はまだ、負けていない。
俺は目を見開き、必死で次の策を脳の中から絞り出す。
何も出て来ない―――――。俺は、剣の腕しかアピール出来ない。
魔法の勉強もしとくべきだった。剣を極める事ばかりしてきた人生を後悔する。
「じゃ、例えばどんな魔法が使えるの? ステータス異常を治せたりも出来るのかな? ちょっと見せてよ」
カナルが興味深そうにゼンツに視線を送る。ゼンツの顔が一瞬、驚いた様にひきつる。
何だ、今の顔。俺は、そのゼンツの異変を見逃さない。
「いや、ここで披露するのはルール違反でしょ? 変に自慢とかしたくないしね」
ゼンツはさっきまでの態度とは違い謙虚だ。
俺は確信する。こいつ、また嘘を付いてやがると……。
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