第8話 美女勇者とチャラい勇者の合コン⑤
「カナルさんは、どんな武器を使ってるんですか?」
カナルとゼンツの会話が途切れるのを見て、俺はカナルに話し掛ける。隙をずっと伺っていたのだ。
「えーと、私の武器は、この両手持ちのロングソードです」
カナルは荷物カゴの中から剣を取り出す。少し微笑んでいる。武器の話題は意外と受けがいいと、俺は経験から学んでいる。
冒険者にとって、武器は商売道具なので、皆こだわりを持っている。そのこだわりについて、聞かれて嬉しくない者はいないのである。確信を持って、俺は質問を続けていく。
「見せてもらってもいいですか?」
俺はカナルから彼女の剣を受け取る。
「おぉ、キチンと手入れされてますね。カナルさんは、マメなタイプなんですね。誠実さが剣から伝わります」
俺はカナルの剣を取り、彼女を褒め続ける。美女勇者はスゴく嬉しそうな照れた顔をしている。俺は手応えを感じ、話をドンドン進めていく。
「盾は使ってないのかな? 攻撃重視なの?」
「いえ、盾を持つと、どうしても片手で剣を振らないといけなくなるので。片手で剣を扱うのは、私はちょっと苦手で……」
「なるほど、分かる、分かる。ロングソード、長くて重いもんね。ちょっと気になったんだけど、カナルさんは魔法は使えるの? 勇者って事は剣だけじゃないんでしょ?」
「うん、簡単なものを少し使えるよ」
「それは、回復魔法? 攻撃魔法?」
「一応、両方だよ」
「スゴいなぁ。俺なんか魔法全然出来ないのに。努力したんだね」
俺はこの段階で敬語を止め、二人の親密度を深めていく。ゼンツは俺にカナルを盗られた様な感じになっていて、酷く機嫌が悪くなっている。
俺は、心の中でシメシメと思いながら、カナルとの会話を楽しむ。
ふと、俺は横のイケメン魔法使いターンが気になる。そして、恐る恐るチラリと見てみる。ネッズと仲良く談笑をしている。
「ネッズさんの好きな男性のタイプは?」
「えー、やっぱり優しい人かな? じゃ、ターンさんは好きな女性のタイプは?」
俺は驚愕する。会話の内容がかなり深い所まで入っていってる。早い、そして、上手い。こいつ、プロなのか、顔から冷や汗が流れ落ちる。
俺は横のイケメンに嫉妬し、敗北感を味わう。ルックスでは、確かにこの男に劣っている事を理解していた。でも、中身の勝負なら、俺の方が上だと思っていた。しかし、この男、コミュニケーション能力も高い。完全に負けている。
男としての格の違いを見せ付けられた。もし、ターンと同じ女の子を奪い合っていたなら、自分には到底勝ち目はなかった。俺は身震いをする。
ネッズの表情をそっと見てみる。スゴく楽しそうな顔だ。ターンは恐らくネッズをお持ち帰りするであろう。ほぼ決定的だなと、俺は落胆してしまう。
しかし、今回の俺のライバルは、チャラい勇者のゼンツなのだ。ターンは今からネッズを諦めて、カナルを狙いに来る事は、まずないであろう。俺に気力が戻って来る。今日は勝てる相手なのだ。
深呼吸をし、再びカナルを見る。やっぱり綺麗だ。獲物を仕止める為に、練っていた作戦通りの任務を俺は遂行する。
「そろそろ、席替えタイムにしませんか?」
勝負をここで仕掛ける。一気に彼女との心の距離を縮めるのだ。俺は再び、場を仕切る。
周りのメンバーも同調して、席替えをする為に、席を立ち始める。バタバタと全員が動いている中、俺とゼンツの目が合う。
ゼンツがこちらを睨んでいる。奴の負けねえぞという気迫が伝わって来る。それに対して、俺は意にも介さない素振りを見せる。
俺の方がリードしている。だから、余裕の表情を見せれるのだ。ライバルもそう感じているから、悔しさ倍増であろう。
俺は抜け目なく、カナルの左側の席を確保する。ゼンツはカナルの右側の席を押さえる。
油断はしない。俺は冷静に周りを状況を確認する。
俺は一番左端の席になった。俺を気に入ってくれていた魔法使いの女の子は、俺とは逆側の端の席、つまりゼンツの右隣になった。距離がかなり遠い。
つまり、美女勇者カナルがダメになった場合、次点の魔法使いの女の子には行きづらくなったのだ。
保険などいらない。一点突破だ。俺は後半の戦いに向け、気合いを入れ直した。
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