第5話 美女勇者とチャラい勇者の合コン②
料理と飲み物がテーブルに運ばれて来る。俺は、全員に料理と飲み物が行き渡った事を確認してから、立ち上がる。
「それでは、皆さん。乾杯!」
俺は乾杯の音頭を取る。今までの人生で初めての経験だ。少し緊張をしている。だが、そういう所を見せない様に演技を続ける。
今回の自分は違うという所を見せてやる。こうして柄にもない事を買って出たのだ。必ず結果を出してやる、俺はかなり意気込んでいた。
皆が正面の相手や隣の相手と乾杯をする。俺は、正面の白ローブの女の子と、美女勇者と乾杯をする。
ライバルとなる男達にも、一応笑顔で乾杯をする。特に右隣のイケメンの魔法使いの行動に注意を向ける。
俺がこの合コンを支配する――――。
俺は決意を固め、次の行動に移す。合コンメンバーの全員を見渡し、声を発する。
「順番に自己紹介とかして行きませんか? みんな、お互いの事を知りたいと思うので、どうですか?」
メンバーは戸惑いながら、周りの人をキョロキョロと確認する。全員、してもいいよという感じの顔だ。俺は空気を読み、またこの場を仕切り出す。
「それでは、皆さん。オッケーと言うような雰囲気なので、俺の方からして行きたいと思います。よろしいですか?」
みな、無言でニコリと頷く。俺は再び、自信満々の素振りで話し出す。心の中はドキドキだったが……。
「俺の名前はサークって言います。剣士をやっています。武器は、このひよこのマークの剣です。よろしくお願いします」
決まった―――。今回は緊張せずにスラスラと言えた。俺は安堵の笑みを浮かべる。メンバーの顔を確認する。大丈夫だ。失敗はしていない。俺を馬鹿にするような視線は受けていない。
よし、まずは第一段階クリアだ。
俺は、次の作戦行動を開始する。右隣のイケメンの魔法使いの方を向き、話を切り出す。
「次の自己紹介、良かったらお願い出来ますか?」
場を仕切るリーダー役はモテる。マッス先輩がそう言っていた。俺は女性陣に頼もしい所をアピールする為に、司会役に徹する。
イケメンの魔法使いは、冷静に微笑みながら頷く。こいつ余裕がある。慣れてやがる。俺は改めて強敵だなと軽く唇を噛む。
「えーと、それでは。皆さん、初めまして。僕の名前はターンと言います。魔法使いをやっています。レベルは中級クラスです。得意魔法は炎系統の攻撃魔法です。今、一緒にダンジョンを攻略してくれる方を募集しています。よろしくお願いします」
ターンと名乗るイケメン魔法使いは、軽く一礼をする。さりげなくアピールをしている。悔しい。もっと俺もアピールしとけば良かったと後悔する。
俺は話の上手いターンに嫉妬しつつ、左隣のチャラい勇者に自己紹介を促す。チャラい勇者は待ってましたとばかりに席を立ち、胸を張って話し出す。
「俺はゼンツだ。勇者をやっている。剣の腕も魔法の腕も一級品だぜ。あんまり知られていないが、実は大魔王を倒したのは、俺のパーティーなんだぜ。よろしくな!」
「な……」
俺は驚きのあまり言葉を失う。何故なら大魔王チワンを倒したのは、この俺なのだ。しかも、たった一人で。異なる事実を述べられ、俺は混乱する。
嘘だ。嘘を付いてやがる。俺は偽勇者をじっと睨み付ける。間違いを訂正しようかと思った時、周りの人の動向が目に入る。
女性陣達は、この偽勇者に冷たい視線を送っている。明らかに嘘と分かる事を平然と言う者に対する反応はこうなのか。
俺もかつて合コンで大魔王を倒した事をカミングアウトした経験があったが、反応は同様の物だった。俺の場合は、本当の事だったのだが、人々の反応はこんなものなのである。
俺は偽勇者が嘘を付いている事を指摘するのを躊躇う。ここで訂正しても自分まで嘘つきにされないからだ。
真実を述べる事ばかりが正しい道ではない。
俺は合コンでその事を学んだので、偽勇者をスルーし、次の者に自己紹介をお願いする。偽勇者の隣の重厚な鎧を着た戦士が、出番だなと話し始める。
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