7-06

 その日の夜、予想外の大雨が街を襲った。家の中にいても暴風の音が鮮明に聞こえ、横薙ぎの風に木々は煽られ大げさに揺れている。


 二階の自分の部屋にいた彩音は、窓から外の景色を見て、言い様の無い不安に駆られていた。考えるのは、下校の際に見た、捨てられていた子猫のことばかりである。


 きっと、大丈夫のはずだ――誰か優しい人が、拾ってくれている――


 そう自分に言い聞かせながら、それでも不安は拭えない。悩んだ挙句、彩音は子猫の様子を見に行こうと、家人の制止も聞かず家を飛び出した。


 雨の勢いは一層、その激しさを増していたというのに。



 あの子猫が捨てられていた場所へと辿り着いた時、彩音は我が目を疑った。


 雨によって水位が上昇した川は、溢れかえり暴れまわっている。子猫のいた所など、既に溢れた水で目視できなくなっていた。


 きっと、大丈夫――こうなる前に、誰かが連れて行ってくれているはず――


 祈るような想いは、だけど叶わぬものであったと、すぐに理解する。


 今にも沈みそうなダンボールを、彩音は見つけてしまった。何かに引っ掛かっているようで流されてはいないが、放っておけばすぐにでも沈んでしまいそうだ。


 この雨だ、周りには誰もいない。助けを求めることは出来なかった。ダンボールの中に子猫がいなければ、誰かが連れて行ったのかもしれないと、微かな希望も持てただろう。


 だけど、――彩音の思い通りには、いかなかった。


 ダンボールの中に、ずぶ濡れの白い子猫を見つけてしまう。もしかしたら、鳴いているのかもしれない。助けてと、鳴き声を上げているのかもしれない。


 そう思った瞬間、彩音は役目など果していなかった傘を放り捨て、何も考えず、ほとんど無意識に――氾濫する川へと身を投じてしまった。

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