1-11 第一幕ラスト
「……私は、ここに住みたい」
口にしながらも、心は空っぽになっていることに、彩音は気付いていた。ナナシは気付いているのかいないのか、微笑みを絶やさないまま頷く。
「うん、おねえちゃんがそうしたいなら、それでいいんだと思うよ。普通にお話できる人がいて、僕もちょっと嬉しいし」
「別に、ナナシくんを喜ばせたくて言ったんじゃ……ごめんなさい」
「謝ることなんてないよぅ。ここでは、自分の思うようにしていいんだから」
悪態をつくのも自由、と言うのだろうか。いや、ナナシが言ったのは、ここに住みたいと言った彩音の言葉に対してだろう。
何となく荒んでしまった自身を恥じた彩音が、気を取り直してナナシに語りかける。
「私はまず、どうしたらいい? 何か仕事とか……しないといけない?」
「んー? 別に、しなくてもいいよ? 何かしたい人はするし、何もしたくない人は何もしなくていいんだ。僕だって《案内人》を任されてはいるけど、案内したくない人が相手だったりしたら、別にしなくていいしね。これも自由なんだってさ」
そろそろ《自由》と《適当》の区別が曖昧になってきたのを感じていた彩音に、ナナシが話を続ける。
「とりあえず、まずはおねえちゃんの部屋を作ろう。万魔殿じゃ、もしかしたらそれが一番大事かもしれないしね」
「……私の部屋を、作る?」
「うん、その辺に関しては、まあ歩きながら説明するよ。ほら、一階の、おねえちゃんがアイツから逃げてた時の通路。部屋がたくさんあったでしょ?」
「あ、うん、そういえば……」
その時のことを思い出して身震いする彩音を差し置いて、ナナシは先に歩き出した。
「それじゃ、行こっ。付いてきてねっ」
「えっ、あ、う、うん……」
またあの大男に出会ったら、と危惧しながらも、彩音は素直にナナシの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます