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「ふむ、何、とは、傷つくのう」
その言葉とは裏腹に、彼女は愉快そうに笑い、手の甲で頬杖を突きながら答えた。
「余の名はアスモデウス。天界の者共にも地上の有象無象にも嫌われる、地の底を這いずりし大悪魔じゃ」
――大悪魔――
それを疑うより、すんなりと飲み込めてしまうことのほうが、彩音には不思議だった。
いや、違うか――今さら彼女が『自分はただの人間だ』などといっても、信じられるはずが無い。それよりも、大悪魔、と思ったほうがよほどしっくりと来る。多分に失礼な話ではあるだろうが、しかし彼女は愉快そうに笑い飛ばすだけだろう。
大悪魔と名乗った彼女は、頬杖をつきながら言葉を続けた。
「さて、それではこれで終わりとしよう。他に何か聞きたいことがあるのならば、ナナシからでも聞けばよい。あの者は人懐っこいからのう、喜んで話し相手になるじゃろう」
「あ、はい……」
何となく呆けた心境のまま、彩音は真後ろにある扉へと手を掛ける。
「あの、そ、それじゃ、私はこれで……」
「うむ、まあ気が向いたら、ここへ顔を見せにきてもよいぞ。汝の自由じゃがな」
「は、はぁ……それじゃ、あの……し、失礼しますっ」
最後に一度お辞儀してから、彩音はそそくさと退室する。相変わらず見た目には重厚そうな扉であったが、やはり重さなどほとんど感じなかった。
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