1-02
現実味の無い軽さとは裏腹に、扉は重苦しい重量感のある響きを立てて閉じられた。じんじんと響く耳を押さえながら、彩音は周囲を窺い見る。
扉を抜けたこの場所は、いわば玄関先なのだろう。吹き抜けた大きな広間のその先に、二階へと続く曲線状の階段が、左右一対のシンメトリーに揃えられている。広間の左右には、どこに続くとも知れぬ通路が無数に並んでいた。
窓はどこにも見当たらない。所々にぽつりと点在する蝋燭が辺りを照らしてはいるが、全体的に暗澹とした装いで、そこに立っているだけで気分が滅入ってくるようだ。
ふと彩音が、通路脇に飾られていた骨董品へ目をやった。どことなく華美ではあるが、若干のひび割れなどが目立つし、相当に古い物だということが判る。しかし骨董品には埃の一つさえ見当たらない。まるで、誰かが常日頃から手入れでもしているかのように。
周囲をよくよく眺めれば、まるで中世の古城のような古めかしさでありながら、汚れなどはほとんど無いようにさえ見える。隅から隅まで手入れが行き届いているようだ。
意を決した彩音が、ごくりと唾を飲み込んでから、おずおずと口を開いた。
「あの……誰か、いませんか?」
風が吹けばかき消されるような声には、何の反応も返ってこない。独りの心細さからか、少しだけ、むっ、とした彩音が、すぅ、と思い切り息を吸い込む。
「あのっ、誰かっ、いませんかっ!」
やはり控え目ではあるが、それでも先ほどよりはずっと大きな声で呼ばわる。それでも何の反応も返ってこないものだから、彩音が肩を落とすのも無理はなかった。
「はぁ……」
一つため息を吐いた彩音が、周囲をきょろきょろと見渡す――と、その時、広間の脇へと抜ける通路の一つから、何者かの影が向かってくるのが見えた。
やはり、誰か住人がいたのだ。何となく不安を覚え始めていた彩音が、向かってくる影へと小走りに近づいていく。
「あ、あの、私――」
声を掛けようとした彩音だったが、影が一際大きく揺らめいた瞬間、喉が詰まった。
「あ、は……えっ?」
通路からそれは、のそりと姿を現した。
大男、と形容するのは、果たして正しいのだろうか。センチではなくメートル単位で測られるべき巨躯は、もはや人間のそれとは思えない。やや小柄な彩音と比べれば、一回り以上は大きく見える。
異常な体躯を持つ大男が、じろりと彩音を見下ろした。どこか焦点の合っていない瞳に圧倒され、足が竦んで動けない彩音に向けて、大男はおもむろに口を大きく開き――
「ヴ……」
「ひっ……」
「ヴォオオオォォォ!」
――雄叫びと共に、彩音へと襲い掛かった。
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