11-4 同類

* ルシア・エクエシス



 新しいルームメイトが来ることを聞いた時、いい人だったらいいなあくらいに考えていて、そこまで興味があったわけじゃなかった。

 私と本当の意味で気が合う人は滅多にいないからだった。

 前のルームメイトもそうだったけど、私という人間を少し理解し始めた人は、たいていが諦めたように傍観者になる。それ以上は私という人間に触れようとしなくなる。

 でも初日にユリアと話した時、私は直感した。

 同類だと思った。

 一つの理想に取り憑かれて、どこまでもそれを追い求めて、傷つくこともかえりみずに進むしかない人間。

 私はうれしかった。

 見くびられることに呆れしか生まれなくなったような言葉。

 ユリアとの生活には共感があった。

 初めて出会う同じ種族。

 それはかけがえのない奇跡だった。

 でも、きっとそう思っていたのは私だけ。

 ユリアという生き物はもっと、もっともっと計り知れない。

 彼女と同じ種族なんていないし、本人もそんなのは求めてない。

 ユリアにはユリアの生き方がある。それを勝手に自分と同じだと思うのは違うと思った。否定するのも違うと思った。

 この拠点を出ていく理由も事情も、私は知らない。ユリアが決めたことなら大切にしたい。

 でも、ダメだ。

 絶対に。


「絶対に行かせない」


 そう言って、構えた。

 ユリアは二本の短剣を握っていた。

 本気だ。卑怯とか公平とか、そういうものは頭にないのがその目でわかる。

 私も手を抜くつもりはない。

 私は異能を両手両足に込めた。

 薄暗い空間に浪洩の光が灯る。

 覚醒能力の使用許可なんてどうでもいい。懲罰でもなんでも受ける。それ以上に優先すべきものがここにあるから。

 例え半殺しにしてでも、ユリアを止める。

 彼女は言った。


「もう、決めたことだから」


 地面を蹴った。轟音を立て、一気に距離を詰める。


「この頑固者!」


 正拳を放った。

 上体を傾げて躱された。

 風圧が突風となり、通りを駆け抜ける。

 回し蹴りが飛んできた。両腕で咄嗟に受ける。

 重く染み込む衝撃。単純な威力じゃない。

 よろけた。

 目の前は既に拳を下段に構えたユリアの姿がある。

 わかっていたことだった。ユリアの体術は私をはるかに上回る。私が勝っているのは、怪力の異能があることだけ。

 でも、たった一つだとしても、それは圧倒的なアドバンテージだ。

 ユリアの放つ拳よりも、私のジャブの方が早かった。例え小さな打撃でも、それはユリアの拳を遥かに超える威力を持っている。

 ユリアは攻撃の勢いを残したまま無理やり避けた。だから体勢が崩れた。

 私は反対の手に残していた本命の拳を全力で打ち出した。

 空気が爆発のように巻き上がる。でも空気だけだった。

 ユリアは崩れた体制でなお、側方に飛んで回避した。

 でもさらに体制は崩れるはず。なら次の一撃で!

 視線で追いかけ、向き直った。

 目の前に立っていたユリアは、リボルバーの銃口をこちらに向けていた。

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