11-3 手合わせ
* ケイ・シラノ
「自体は我が国の存亡に強く影響するものと判断するべきです!」
「そもそも特務部隊に任せたのが誤りだったのではありませんか!」
「壁の件といい、特務部隊の信用が国のパワーバランスに大きく関わるという事をお忘れですか。その影響はすでに各地に出始めているのですよ!」
「シラノ。これは大きな失態だぞ」
「ええ。紛れもなく私の判断ミスでしょう。今回の件で、特務部隊は戦力的に大きな痛手をおってしまいました」
「自身の立場が危うくなっていることを自覚しているのですか!」
「私の立場などどうでもいいことです。みなさん。私たちを標的にするのはご勝手ですが、ご自身の役目を見失わないでください。今の壁に変わる新しい防衛手段の開発や、魔物凶暴化の原因など、根本的な解決が何一つ進んでいないのはどういう事でしょう」
「……」
「……」
「……」
「一旦はトレース・マグナに任せてはどうだ。研究開発はその後で間に合わせればいい」
「しかし首相! アリス王はもちろん、センも現在は接触が難しい状況です!」
「ファーストがいる。シラノ、お前なら知っているだろう」
「国際法に違反するおつもりですか?」
「センはアーベントに依頼を受けたと聞きましたが」
「証拠はありません。あくまで形では彼女の自己判断ということになっています。それに私が違反だと言ったのは、私にファーストの居場所を聞くことですよ」
「なら、
「ええ、もちろんです。なんの不安も要りませんよ。私の部下は優秀ですから」
* ユリア・シュバリアス
深夜の中央拠点は控え目な感じがした。
まだまだ冬はこれからだけど、吐く息は正門の淡い光に照らされて白くなった。
拠点の正門は閉まっている。でもこの時間だと、どうせ他に出入りする方法もないから、あえて一番大きな正門を選んだ。
と言っても正門をこじ開けるわけにはいかないので、脇にある守衛小屋に寄った。
守衛には「病気のおばあちゃんが危ない状態なんです」と嘘をついて熱心にお願いしたら通してもらえた。甘い人でよかった。
外に出ると風が吹いて、一気に気温が下がったような気がした。
徒歩だと二、三時間くらいか。
広い道に沿って広がる暗い街並みを、私は真っ直ぐに走った。体が震えるから、何を考えるでもなくひたすらに足を動かした。
何も考えない、つまり空っぽなままで、足だけを動かした。
そうしてしばらく走って、突き当たりを曲がろうとした。
その時、後方で大きな音がした。
直後に誰かが背後にいる気配がした。
「ユリア」
立ち止まった。聞いたことがある声だけど、聞いたことのない声色だった。
振り返る。
「ルシア」声と髪型と立ち方で判断し、彼女の名前を口にした。
「どこいくの」
彼女はただそこに立っていた。こちらを見つめる彼女の視線を、私は直視することができなかった。
「任務は終わったの?」
問いを返した。そこでルシアの表情が街灯に照らされた。
ルシアは怒っていた。見開かれた美しい瞳から、鋭い眼光が延びていた。
多分、ちょうど任務から帰ってきて、いるはずの私がいない事を不審に思って探し、あの守衛さんに話を聞いて追いかけてきたのだろうけど、わかるのはそれだけのはず。
「質問に答えて」
どうしてそんなに怒ることができるのだろう。まるで私が何をしに行くか、聞かずとも知っているみたいだ。
「ライブリーに入る」
ルシアの食いしばった歯が見えた。
「どうして」
「今よりも生きやすいと思って」
「ハルを殺したのはそいつらでしょ!」
ルシアの怒鳴り声。ルシアが怒っている、と、私にもう一度知らせる声。
その事実が私の中に響き渡る。
「そう、かもね」肯定した。本質的にはそうだ。「でも、私が生きることには関係ないから」
ルシアは絶句した。その反応をわかった上で言った言葉だった。
深夜、立ち並ぶ商店の中、そこにいる生き物は私とルシアだけだった。
ルシアが言った。
「……ねえ、いつか手合わせしようって言ったの、覚えてる?」
彼女と始めて会った時を思い出し、出かけた言葉を一度押し込んで、別の言葉を返した。
「そうだね」
許可なく覚醒能力を使っていいの、と言おうとしたけどやめた。ルシアの瞳の力によって押し込まれたようだった。
短剣を構えた。
何かがこみ上げた気がした。
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