7-1 フォルマン分隊
* ど う だ い ?
役者もだいぶ増えてきたみたいだよね。あの子たちがどうなるのか、楽しみだ。
少し羨ましい気もしてきたな。変化が出来るって、凄いことだよね。私は変化が怖いよ。
え、ああ、私でも未来のことはわからないよ。だからこうして見守ってるんじゃないか。
* ユリア・シュバリアス
その日の晩。分隊長から召集というか、誘いがきた。話すついでに座学でもしようとのことだった。今日一日は休暇のはずだけど、座学ならいいやと思った。実際、私とイロハは全然平気だ。心配なのはハルの精神状態だけど、イロハはハルと何を話したのだろうか。
分隊室に入ると、ハルがもう部屋にいて、立ったまま本棚を眺めていた。
「ハル」
そう声を掛けると、私に気づいた彼女は私に向かって真っ先に頭を下げた。
「昨日はごめん。言いすぎた」
「ああ、いやいや、私は全然平気だよ。それより、ハルが大丈夫そうで良かった」
彼女の声色からして、完全にへっちゃらになったわけではないみたいだけど……
「あれ、言いすぎたってことは」
「もちろん、まだ嫌いよ」
真顔だった。
「あはは……」
でも、昨日とは全然違う。しっかりと私の事を嫌いになったって感じ。少なくとも任務に支障はなさそうだった。
直後にイロハもやってきた。ハルが大丈夫なのはわかってるようだった。
「やあ、三人とも待たせたね」
シマザキ隊長もすぐに入ってきて、三人で敬礼する。
シマザキ隊長は扉を閉めると、珍しくしっかりと答礼した。
「昨日は本当にすまなかった。君たちを危険に晒したのは、俺を含めた上官たちの責任だ」
返答に迷った。けど、私たちが口を開ける前に隊長は続ける。
「そして、俺が来るまで、よく耐えた。君たちがいなければ、大勢の人間が死んでいたよ。本当によくやった」
私たちは黙ってもう一度敬礼した。
大勢の人を助けたという実感。私は幸福感でいっぱいになった。
二人の顔をちらりと見る。ハルは眉間に皺を寄せながら歯を噛み締め、イロハは目を見開いていて泣きそうに見えた。
「話したかったのはそれだけだ」
シマザキ隊長は少しの笑顔を浮かべて言った。きっと任務が終わってから、ずっと言いたかった言葉なのだろう。彼は呑気に見えて、案外自分を責めるタイプなのかもしれない。
隊長は両手を腰に当てて、黒板を一瞥した。
「座学の内容は別に決めてなかったんだけど、その辺の本を使ってざっくりと、」
その時、全員のデバイスが光を放った。
*
シマザキ分隊は、五番都市ベリアの、第二特務拠点の入り口で待機していた。
初めて経験する転送魔述式(語呂がいいからみんな転送述式って言うらしい)には興奮したけど、夢が覚めるみたいに気づいたら転送が完了している感じで、正直ちょっと拍子抜けだった。
少しすると、一台の
同じく敬礼をする三人。一人はグレーの髪のダンディーな中年男性で、階級はシマザキ隊長と同じ准等士官。
「お久しぶりです、フォルマン隊長」
「あのなあレン……同じ階級だって言ってんだろ」
シマザキ体調の敬語は珍しい。たしかに尊敬されそうな見た目の人だ。イケおじだ。
彼の後ろには女の子の兵士が二人いて……
「あれ、ルシアに……サフィさん」
「気安く呼ぶな」
「えへへ、よろしくね三人とも」
協力する分隊って、ルシアの分隊だったのか。しかもサフィさんも同じ分隊だったとは。
「知らなかったのか?」
イロハが私にそう言った。ハルも別に驚いていない。どうしてだ。
「さあ、乗ってくれ。ブリーフィングは移動しながらだ」
フォルマン分隊長が荷台を指さして言う。いい声だ。ものすごく聞き覚えがある。
揺れる荷台の上で、フォルマン分隊長が地図を広げた。
「襲撃された第一監獄は、ここだ。そして、解放された囚人がこの空き倉庫か、この廃屋のどちらかに集められるという情報を掴んでいる。信憑性は高い」
隊員の五人で食い入るように地図を眺める。
シマザキ隊長が顎を触りながら言う。
「罠の可能性は」
「高くないが、充分にありえる。だが逃げた囚人が集められる以上、放っておくことはできない」
「なるほど、それでこのメンツってわけですか」
フォルマン分隊は少し変わった分隊で、増援や支援などを主に請け負うらしい。ついさっき別の案件を片付けたばかりと言っていたから、結構頼られているみたいだ。
サフィさんがさっきからずっと、不服そうというか、不貞腐れた顔をしている。こっちは休み無しの激務なのになんでよりによってこんな奴と! という心の声が丸聞こえだ。
フォルマン隊長は続ける。
「候補が二箇所あるから、二手に分かれよう。こっちは俺とルシアとサフィと、イロハ君を貰おうか」
何秒かして、イロハがハッと顔を上げる。
「え、俺でいいんですか」
「いいですねえ。それでいきましょう」
指名されたイロハは当然かも知れないが、シマザキ隊長もなぜか嬉しそうだった。
「質問よろしいですか」
ハルが軽く挙手した。
「なんだ」
「監獄を襲撃した組織の正体は、わかっているのですか」
「現時点で判明しているのは、過激派の覚醒者たちということだけだ。逃げた囚人も全員が覚醒者だ」
「一人残らず捕まえなきゃ」
冷たい声でそう言ったのは、ルシアだった。
「そうだ。一人でも逃せば、市民に危険が及ぶのはもちろん、一般の覚醒者の生活が危うくなる可能性がある。最悪の場合は殺害許可が出ているのを忘れるな」
『了解』
馬車の前方を見やった。街灯の小さな灯が、暗い道に続いている。
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