6-2 最果ての味
「センって、あのセンですか? 最果ての……」
「さあな」
彼女はカウンターに頬杖をつき、不貞腐れたようにそう言った。
それは既に肯定だ。
「すごい……」
トレース・マグナのメンバーをこの目で見るのは初めてだった。そう言えば、私の戦闘能力を見ただけで判断できたみたいだけど、それもよく考えればおかしい話だ。わざわざアーベントに呼ばれるのも納得がいく。
高揚感で体がじんわりと熱くなった。
「この辺りを拠点にしてるんですか?」
「特に決まった住処はねえよ。依頼のために適当に渡り歩いてる」
きっと全世界を股にかけていると言うことだろう。彼女は新聞にこそ載らないが、(トレース・マグナの動向は報道できない決まりがある)それでもセンを見たという噂は世界中に広まっている。
「じゃあ、私はもう行く。ヤシロ、勘定」
センさんは立ち上がり、内ポケットからピンクの小さな巾着袋を取り出して、その中に手を突っ込んで金貨を一枚手に取り、カウンターに置いた。
「こんなにいらないんだけど」
それを見たヤシロさんは、細目で彼女にそう言った。するとセンさんは、その白いウルフカットの髪を手でかき分ける。
「両替が面倒なんだよ」
「さすが、カネばっか増えてく奴は違うわね」
「悪いか」
「別にー」
そう言いつつしっかりと金貨を受け取るヤシロさん。私は苦笑いしかできない。
センさんは私の方を見た。
「じゃあな。運が悪ければまた会うだろうよ」
言って、立て掛けてあった刀を手に取った。
「はい、その時はぜひ手合わせをお願いします」
できれば今がいいのだけど。そう祈るつもりで、私は笑顔で言った。
「あ?」
その時、殺気の波が押し寄せた。
刹那、彼女が手に持った鞘から、閃光が一直線に放たれ、私の首筋に伸びて、
触れる直前、静止した。
違う。閃光じゃない。刃だ。氷のように冷たい感触が、私の頸動脈を焼くようだった。
「ちょっと」
ヤシロさんが腰に手を当てて言う。怒っているみたいだが、センさんにその言葉は聞こえていないようだった。
「……舐め腐ってやがると思ったが、存外にやるみてえだな」
眉間に皺を寄せた彼女は、私を見下して言った。多分、私が全く動じていないからだろう。
「いえ、初動以外は全く見えませんでした」
その初動で、当てる気がないのは理解できた。
「はっ、生意気なガキだ」
センさんは満足そうに刀を鞘に収め、私の後ろを通って出口に向かう。
「せいぜい長生きすることだな無覚醒」
ドアベルが鳴り、扉が閉まった。なぜだろう。笑顔だった気がする。情緒がよくわかんない人だな。
最後のはどう言う意味なんだろう。
「長生き……」
「ある意味心配してるのかもね」
ヤシロさんを見ると、彼女に焦りや困惑した様子はない。
「心配ですか?」
あれが?
「あなたが死んだら、周囲の人間はきっと「無覚醒だから」って言う。そんなの、あなたからしたら不本意でしょ。そうならないために……」
「ああ、なるほど! 別に気にしないのになあ」
「え……?」
あ、まずい。と思った時にはもう遅い。本音をいきなり言っては不審がられるって、学んだばかりなのに。
「ははは! そっか! 面白いね、ユリアちゃんは」
ヤシロさんは笑った。素敵な笑顔で、豪快に。私は遅れて、少し引き攣った笑いを添えた。
よくわからないけど惚れそうになった。
「あの、お二人はどういう関係なんですか?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。するとヤシロさんは少し目を細めた。
「ああ、幼馴染」
「おさななじみ……」
ストンと腑に落ちた。最果てのセンとあの会話ができるのは、幼馴染か家族くらいな気がする。それにしてもカレー屋と最強の異能使い。すごい幼馴染がいたものだ。
今日、この店に来てよかった。まさかあの人がいるとは思っていなかっただろうけど、ルシアには感謝しなきゃいけない。
あまりにも速すぎるあの剣の正体は、まるで自分の体を投擲するような無駄のない力の使い方。速さの追求に行き詰まっていたところだけど、
なるほど、ああやるのか。
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