第3話 まだまだ子供

 軽自動車の後部座席までパンパンになるほど荷物を積んだ僕達は、その足で頼まれていた各お宅を回った。 どのお宅でも『いつもありがとうね』と笑顔で迎えられ、本田さんのお宅では『お茶くらい飲んでいきなさい』と強引に引き込まれてしまった。


「すっかり遅くなっちゃったね。 ゴメンね 」


 苦笑いする響歌ちゃんに『構わないよ』と笑い、最後のお宅から帰路に就く。


「食材にしろ、生活備品にしろ、宅配にすれば良かったんじゃ? 」


 お茶といっても、ペットボトルの箱買い。 お宅別に分けた段ボール箱だけでも6箱で、重さも結構なものだ。 僕が来る前までは、職場の仲間や親に運んでもらっていたらしい。


「それじゃ意味がないのよ 」


「えっ? 」


「買い出しというのは、あくまで口実なの。 本当の目的は、おじいちゃんおばあちゃんの様子を窺うこと。 ほら、ご近所って独り暮らしや子供と一緒に住んでないでしょ? 」


 言われて気が付いた。 届けた先はみんな高齢者だけで、車の運転や重い荷物は持てなさそうな人ばかり。


「でもそれって、役所の仕事のような気がするけど…… 」


「もちろん福祉課の仕事だけどね。 正直、手が足りてないのが現状なの。 それに近場の人達はわたしが見てあげたいっていうのが本音かな。 迷惑だったよね、付き合わせてゴメンね 」


 申し訳なさそうに言う彼女は、そう言って俯いてしまった。


「いや、運転役ならこれからも言ってよ。 どうしてなのかな? って思っただけだから 」


 これは本音。 おじいちゃんおばあちゃんの為と言えば嘘になるけど、彼女の為なら苦ではなかった。


「ありがとう! さっすが男の子! 」


 男の子って…… 僕の方が年上なんだけどなぁ。 でも彼女の方が周りに気を配れたり色々としっかりした考えを持ってたりと、間違いなく精神年齢は上だった。


 僕はまだ子供だな…… 彼女のこの笑顔を見ることだけが嬉しい。


「そうだ! お礼と言っちゃなんだけど、明日飲みに行こうか! 金曜日だし 」


「えっ! お礼なんて別にいらないよ 」


「美味い肴がありますぜぃ? ダ・ン・ナ! 」


 揉み手で誘ってくる彼女。 特段お酒が好きなわけじゃないけど、酔った彼女は見てみたい……


「じゃあ僕が奢るよ。 普段色々手伝ってもらってるお礼も兼ねて 」


「えー!? それじゃわたしのお礼にならないよ! 」


「いいーや、僕がお礼したいんだ! 」


 夕暮れの一本道を走る車の中は、カーオーディオの音楽がかすむほど笑いに溢れた。





 翌日はあいにくの雨。 農作業はお休みになり、暇を持て余した僕は昼過ぎに家を出た。 響歌ちゃんとの待ち合わせは、江北区にある町役場のロビー。 定時で降りてくると張り切っていたから、今頃は必死に頑張っているんだろう。


 バスに乗って江北区に移動したはいいけど、まだ午後二時を回ったばかり。 そういえば、こっちに来てゆっくり町中を見たこともなかったっけ。


 傘を片手に町役場を素通りし、繁華街へと足を進める。 繁華街と言っていいものなのか、100メートルも歩くと住宅地へ入ってしまうくらい規模は小さい。 中川町の人口は統合されたといえ一万人にも満たないのだから、当然と言えば当然だ。


 雨を避けて、町に何店かしかない牛乳瓶のマークのコンビニに入ってみた。 3ヶ月ぶりだろうか…… とても懐かしい感じがする。


「ありがとうございましたー! 」


 入って何も買わないのは気が引けたので、シュークリーム一つと缶コーヒーを買って店を出た。


「…… どうしようかな 」


 近くに大きな公園があった筈だが、雨の公園は寂しすぎる。 他に施設はないかと見回すと、『直売所』の看板を見つけた。


「そういえば恵治さん、直売には出品してないのかな? 」


 シュークリームを口に放り込み、コーヒーで流して直売所に立ち寄る。 一通り見てやはり時間を余し、結局町役場に戻って喫茶コーナーで時間を潰したのだった。 

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