第26話:そりゃ偶然だ
「やっぱり
ズバリ見抜かれた。
だけどそれは、認めるわけにはいかない。
「いや違う。実はホトって俺の
「え? そうなの?」
「そうですよ。穂村トオルであだ名がホト君。俺の3つ上だけど、よく似てるって言われる」
ホントのいとこは真紅姉さんだけどな。
そして穂村トオルなんて名前は超適当。
「あいつは天王寺のバーで働いてますが、なんで先生が知ってるんですか?」
「えっと……彼のバーに何度か行ったことがあるのよ」
「へぇ、そうなんですね。そりゃ偶然だ」
「ええ。偶然ね」
ふわり先生は少し微笑みながら、じっと俺を見ている。
ちょっと待って。その目、めっちゃ怖いんですけど?
もしかして、まだ疑ってるのか?
「あのさホト君」
「はい……って、違うってば」
「ああ、ごめんごめん」
うっわ、ヤバいヤバい。
思わずボロを出すところだった。
思いっきり疑われてる。
……と思ったら、なぜかふわり先生の態度が急に変わった。
「ああ、よくよく見たらやっぱり別人よね。さすが従兄だからよく似てるけど、全然違うわ。ね、穂村君っ!」
にっこり笑ってる。
どうやら納得してくれたみたいでホッとした。
でも『よく似てるけど、全然違う』ってなんだよ。
国語の先生なのに日本語おかしくないか?
相変わらずふわり先生って天然だな、アハハ。
──なんて思った。
***
それから一週間。学校でふわり先生と顔を合わせる度に、なにやら俺をチラチラ見てるような気がした。
いや、単に俺の思いすごしかもしれないけど。
その間、先生はバー
なぜなのか気になる。
だけどたまたまかもしれないし、変に気にしても仕方がない……と自分に言い聞かせる。
そして週末、金曜日の夜。
明日は学校は休みだ。
もしかしたら、という予感は大当たりした。
他に2組ほど客がいる時間帯に、ふわり先生が店に姿を見せた。
「いらっしゃい」
「お久しぶりぃ〜ホト君!」
なんだ?
テンション高いな。
顔も赤いし──
「どっかで飲んできたの?」
「うんっ! 居酒屋で一人飲みしてきた!」
「そっか。ご機嫌さんだな。なにかいいことあった?」
「あったよぉ〜」
「なに?」
「ホト君に会えたっ!」
「……は?」
いつもこの店に来れば俺に会ってるのに。
今さらそんなことを『いいこと』だなんて。
喜んでくれるなら、まあそれはそれでいいけどな。
ふわり先生はいつものように、カウンター席に座り、ハイボールを注文した。
「お待たせしました」
「ありがと」
先生はハイボールをひと口、グビリと飲んでから口を開いた。
「あのさホト君。穂村ワタル君って知ってる?」
いきなり来たか。
俺のすぐ横では、
ふわり先生の発言にも、ピクリとも動揺しない。さすがだお姉さま。
「もちろん知ってるよ。俺の
「穂村君はね……実は私の教え子なんだよ」
「うん」
「あれ? 驚かないの?」
「ああ。ワタルからちょっと前に電話があって聞いた」
「そうなんだぁ。残念! びっくりさせようと思ったのに」
「俺を驚かせようなんて一億年早いわ」
「なにそれ?」
ふわり先生はぷっと吹き出した。
変に知らなかったことにするよりも、この方がリアリティが出るだろ。
「ホト君と穂村君って仲良いの?」
「いや別に。親戚の集まりで会えば話すし、それ以外はあんまり話す機会もないな。普通の従兄関係だよ」
「そうなんだ」
ふわり先生は、ホト君と穂村ワタルが従兄だって、完全に信じてくれてるようだ。
だけどこの話題はマジ心臓に悪い。ドキドキが止まらないぞ。
「でも二人はよく似てるよね」
「そっかな? 自分じゃわからないよ」
「だよね」
そこまで言って、ふわり先生は一瞬黙りこんだ。
しかしすぐに笑顔になる。
「よくよく見たらね。二人はぜ〜んぜん別人だったよ! 完全に別人!!」
「だろ?」
「うん、間違いない!」
その時他の2組の客が、たまたま同時に「帰る」と言い出した。
ふわり先生との会話を切って、2組の精算を済ませる。
「ありがとうございました」
「また来るね〜」
「はい、よろしく」
これで店内の客はふわり先生だけになった。
客を見送ってカウンターの中に戻り、ふわり先生の目の前に立った。
そこには、さっきまでのテンションの高さはどこかに消え失せて、真顔で考えごとをしている先生の姿があった。
「どうしたの? 暗いぞふわりちゃん」
「ん……色々と思うところがあってさ」
なんか思い詰めたように見える。
マジでどうしたんだろ。心配だな。
「大丈夫?」
「えっと……」
ふわり先生は大きく深呼吸をした。
そしてまっすぐに俺を見据えて口を開いた。
「ホト君って、やっぱり穂村君だよね」
さっきまで『完全に別人』って言ってたのに、なぜ突然またそんなことを言いだしたのか。
俺はわけがわからずフリーズした。
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