第4-3話
「なあ、そういえば勝負ってどうなるんだ?」
冬華と夏美は公園を後にすると、共に夏美の家へ向かっていた。
「保留。」
「保留?なんだそれ。」
「足くじいちゃったんだからしょうがない。夏美だって手が痣になってる。」
「そ、れ、は、冬華が被さってきたからだろ。まったく。」
結局、ゲームは続行不可能となってしまった。途中経過をみれば4-0で夏美の勝ちなのだが、冬華はそれを許さなかった。冬華は夏美に肩をかり、右足を庇いながらゆっくりと歩を進める。
農具用の電動ポンプがぷしゅぷしゅと回転し、時折夏美たちにも降りかかった。左右畑と田んぼに挟まれる、ろくに舗装されていないアスファルトの一部に黒濃い模様が浮かんでいる。その空間だけは、夏とは思えない程涼しげで、心地が良かった。
(夏姉とバスケした帰りに、いつも涼んでたっけ。)
隣にいる冬華はさも珍しそうに、ポンプが自分の方へと向くのを今か今かと待ち望んでいた。両手を上げて、全身で浴びるように。昔の夏美がそうしていたように。
「冬華。」
「何、夏美もやる?」
「どうして、秋姉と勝負がしたかったの。」
冬華は両手を広げたままの状態で答えた。
「夏美とバスケがしたかったから。」
「かもって。それに、冬華が勝負したいって言ったのは秋姉の方じゃん。」
「うん、でも一番バスケをしたかったのは夏美。」
「…全然わかんない。」
「いいよ、今は分かんなくても。」
ポンプの水が夏美たちと冬華に降り注いだ。夏美は目をつむり、水しぶきが止んだのを待った。
「来年。」
気が付けば、冬華は夏美の方に向き直り、人差し指を真っすぐ突き立て言った。
「夏休みになったら、また公園で勝負の続きをする。だから、夏美はバスケを辞めないで。」
誰もバスケを辞めるなんて一言もいっていないのだが。口を挟みそうになって、止めた。多分、このセリフは野暮だと、何となくそう思った。夏美は、冬華に聞こえないよう小さく呟く。
また、来年。
陽炎の記憶(短編) 黒神 @kurokami_love
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