第3話

 これは…『真価ワース』だ!

 ボクはびっくりした。

 なんでかって…ボクがそれを見てからたった数秒しか経ってないように思ったのに……

 気付けば目の前にいたウゾウとムゾウが倒され地べたに転がっているんだもん。

『なんという…早業』

 思い出してみる、ボクが『剣』をみたすぐあと、目の前に何処から来たのか大きな男の人が立っていたんだ。

 その後、向かってくるウゾウとムゾウに多分…何か攻撃してた。

 奴らはそれを受けきることもできないで一撃で倒れたんだ。

 …凄すぎる。

「こちらに助勢するべきと踏んだが…どうやら正解だったな」

 男の人がこちらを振り向いた。

 なんか、凄い存在感というか威圧感があってビクッとしてしまった。

 表情は少し不愛想な感じがしたけど、悪い人じゃなさそうだ。

 凄く背が高いから首が痛くなりそうな程ボクは見上げた。

「何よ!アンタ」

 男の人の背後でおばさんが甲高い声を上げている。

「ただの旅の者だ」

「それじゃあ邪魔をしないでっ!」

 おばさんが癇癪を起こしてる。

「それは出来ない、もう剣を抜いてしまったからな」

 男の人が剣をおばさんに向ける、スゴイ…

「それじゃあ…こうなったら奥の手よ!」

 おばさんの前に『使』の『真価』が現れる。

 それと同時に街道一帯に無数のモンスターが現れた。

 こんなにたくさん!

 ゴブリンやゾンビとか見てわかるものからよく分からない奴まで…

 街道を埋めるくらい多くのモンスターが出現して、周りは大騒ぎになった。

 逃げ回る村人や旅人たち…

 これは…大変だ!

 でも

「…雑魚だな」

 男の人が、多分ボクにだけ聞こえるほどの声でそう言った。

 そして…

 目の前でまるで魔法が掛かったみたいだった。

 男の人はみんなを守りながら、モンスターだけを倒して回ったんだ。

 剣を一振りするごとにモンスターは滅び、モンスターの攻撃はことごとくみんなに当たる前に彼が防ぐかモンスターを倒すことで守り。

 疾風のように動きながら…全てを一瞬で済ませていた。

「すごい…」

 アイツを除いてだけど…こんなに強い人をボクは見たことが無い。

「…ってうわっ!?」

 見惚れていたボクの目の前にお坊さんのような恰好の一つ目のモンスターがいた…のだけど。

「大丈夫か?」

 すぐに男の人が上からの一撃で切り伏せていた。

「ダンケ…ありがと…大丈夫…デス」

「そうか」

 男の人はそれだけ言うとまたすぐに視界から消えて、再び灼熱のようにモンスターを倒していった。 

 

 ほんの…1分も経ってないんじゃないかな…

 あれだけいたモンスターは全て消え去っていた。

「おばさんは!?」

 ボクが気付いて大声を上げた。

 すると、モンスターを倒した証、地面に転がる大量のドロップアイテムのうちの一つと思っていた丸い玉がパカリと開いて声がした。

「次はこうはいかないんだからねぇーーーー」

 おばさんの声だ、どうやら律儀に捨てセリフを残していったらしい。

 周りをよく見ると遙か遠くの空を何か大きな鳥みたいなのが飛び去っているところだった。

「倒しても良かったが、今は人命が一番だったからな」

 そう言ったのは勿論あの男の人だ、彼はおばさんが逃げるのにも気付いていたんだ。

 本当に強い…

「あ…ありがとうございましたぁ」

 力がようやく抜ける…怖かったぁ…

「これも鍛錬だ、感謝を受けるほどではないさ」

 本当にそう思ってる風に男の人はそう言った。

「あの…ボクの名前はメイと言います…お兄さんは?」

 いつもでも『男の人』では申し訳なかったのでボクは尋ねてみた。

「自分か…『アルザス・ウォーレント』、旅の剣士だ」

「…アルザスさん」

 こうして、ボクたちみんなはアルザスさんに助けられたんだ。


 ボクは骨董屋のおじいちゃんの所に戻っていた。

 アルザスさんは村長さん達に連れられ歓待を受けているようだった。

『店主殿、某を自由にしては貰えないでしょうか?』

 そう、マキさんの問題が残っていたからね。

「そうは言ってものう…お前さんは一応売り物じゃったからな」

 おじいちゃんも初めてのことに戸惑ってる…うん、そうだよね。

『それでは代金をお支払うという事で宜しいでしょうか?』

 マキさんがそう言った途端、机の上にジャラジャラと

「コレは…金貨?」

 そう、金貨がマキさんの身体?から落ちてきた。

『某、長き眠りに就く前は旅のお供をしておりました故、多少の蓄えは有るのです』

 お金持ちの巻物なんておじいちゃんもびっくりだ。

「ああ…確かにこれなら損はしないけんど…まさか仕入れた道具に支払ってもらうとは…世の中何が起こるか分からんね」

『それでは?!』

「いいさ、お前さんはもう好きにしてええよ」

 こうしてマキさんは自由の身になったんだけど、そうなると

『続いてはメイ殿、某の願いを聞いてはくれませんでしょうか?』

 うん、そうなるよね。

 骨董屋でそうこうして数分後、ボクたちは月山亭に向けて歩いていた。

 ちなみにお皿は背負い籠をおじいちゃんが貸してくれたのでそれに入れている。

「でも、なんでボクなんだい?マキさんはお金も持ってるようだし一人でも歩いて?浮かんで移動できるし問題ないんじゃない?」

 ボクとしては単純に旅の道連れが増えるのは歓迎しても良かったんだけれど…それでもボクの目的を考えるとやっぱり巻き込むのはダメな気がしたんだ。

『実は某、神気が少ない場所では活動に限界が有るのです』

「しんき?」

 また知らない単語が出た。

『神や仏、聖なる場所や存在が有する力なのです、先程も申した通りメイ殿には神聖なる力…そう、神気が感じられるのです』

「じゃあ、もしかして神気が無いと死んじゃうわけ?」

『否、神気不足の場合、一時機能停止…つまり長い眠りについてしまうのです』

 なるほど

「それじゃあお店に来るまで眠っていたっていうのは」

『はい、神気の不足の為だと思われます…残念ながら眠る前の記憶が曖昧な為断言は出来ないのです』

 そっか…記憶と言えば、ボクも前にいた世界の記憶がどうもあちこち抜けていたらしく、その難儀さはちょっと分かる気がした。

 ふむふむと考えていると、月山亭に着いてしまった。

 そもそも大きくない村なのだ。

「詳しい話は今日の仕事が終わった後でもいいかな?話が話だから親父さん達にも聞いて欲しいもん」

『先程話していた現在お世話になっているご夫婦ですな…分かり申した、待たせてもらいましょう』

「ありがと…ああ絶対ここでは喋んないでね? 喋る巻物なんてみんなビックリするから」

『承知』

 そうしてボクらはお店に入ったんだけど…

 小さな村では既に噂が行き渡っていて、ボク達はまだ休憩中だったはずの店内でみんなの質問攻めに会っちゃったりしたのだ。

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