第5話

 木々の木漏れ日に包まれ、清籟に吹かれて葉と葉がこすれて波のような音を立てる穏やかな森林で。


「ロキ、ロキぃ!採ってくる薬草、これであっているか?失敗したさっきのとは違って今回のは自信があるのだが!」


「あっていますよ、依頼にある薬草は間違いなくそれです」


「おぉ!流石は我が審美眼たるな!素晴らしい!この調子で見つけまくってやろうぞ!くくく……薬草どもぉ!我の手から逃れられるとは思わぬことだぁ!」


「……」


「えぇ、マキナ様もあっていますよ」


「……っ」

 

 冒険者となった僕たちは初心者らしくあまり魔物の出ない街の近くの森を訪れ、薬草の採取の依頼を受けていた。

 僕たちの実力であればもっとすごい依頼を受けることも不可能ではないが、最初のうちはこのくらいの依頼がちょうどいいだろう。

 マキナ様とラリア様にとっては自身にとって始めてとも言える仕事であるのだから。


「……」

 

 僕は依頼にあった薬草を採取しながら、それとは別途に個人的に欲しい薬草まで採取していく……ウェルリンク公爵家に仕える使用人の一人にこの薬草の材料とする薬を欲する者がいたはずだ。

 後でこれを材料として薬を作り、彼へとプレゼントするとしよう。


「このあたりで十分ですかね?」

 

 三人で薬草採取に動くこと十数分。

 初心者用の依頼なだけあってその難易度はかなり低く、大した苦労もなく依頼に示された通りの薬草を採取し終えた。


「ふふふ……これが我の初仕事になるのか。くふふ。クハハハハ!この程度、我程ともなれば問題ないわぁ!」


「……っ」


「それではそろそろ帰る準備をいたしましょうか」

 

 簡単な仕事であっても満足げかつ充足感に満ち溢れた様子を見せるマキナ様とラリア様に街へと帰るよう告げる。

 そのときであった。


「……ん?」

 

 草木をかき分けて何かが進んでくる大きな音が聞こえてきたのは。


「……ととっ」


「むっ?」


「……っ」

 

 草木をかき分けて僕たちの前へと姿を表したのは一匹の獣。

 圧倒的とも言える巨躯に二本の天まで届かんばかりに伸びる立派な牙。


「ブルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!!」


「わわっ!?」


「……ッ」


「……エンシェントボア?」

 

 こんな下級の森にいて良いような巨大なイノシシの魔物を前にし、僕は疑問の声を上げるのだった。


「ブラァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「うるさいですよ?」


 そして、自分の方へといきなり突進してくるエンシェントボアを一蹴りで吹き飛ばすのだった。

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