第13話

 ラリア様がウェルリンク公爵家へとやってきてから早いことでもう一ヶ月


「むむっ。これは、なかなかの一手たるな……ここまで我を思い悩ませるとは」


「……」


「だがしかし、我が智謀には未だ届かぬ!我が智謀を見よ!」


「……」


「む、むむぅ!?……ぐ、ぬ。むむむ、くっ。ここまでの域とは。この我が認めよう、汝が智謀は我に届きうると。だからこそ負けられぬ!ここ!」


「……」


 マキナ様とラリア様の仲は既にだいぶ深まり、マキナ様が深々とフードを被って顔を一切見せていない状況であれば二人でボードゲームを楽しめるくらいには打ち解けていた。

 それでもマキナ様は一切喋っていないが。


 ちなみに、この世界で発明された将棋やチェスと似た雰囲気を感じるボードゲームの優劣であるが、喋っていないマキナ様の方が強キャラ感があり、強そうではあるが、それは見えるだけで実際のところは互角といったところだった。


「ふぅー」


 マキナ様とラリア様のやり取りを傍から見ながらゆったりと本を読んで過ごしていた僕は今、読み終えた本を閉じてティーカップを手に取る。


「少々お二人ともよろしいでしょうか?」

 

 紅茶を飲み、喉を潤した僕は白熱するボートゲームの試合を繰り広げる二人へと声をかける。


「……?」


「ん?なんであるか?」

 

「ちょっとした提案をですね。自分はローエスタ公爵閣下よりラリア様に世俗的な常識と価値観も教えるよう申し付かっております。そこで提案なのですが、我々三人で冒険者をやりませんか?」

 

 冒険者。

 それはこの世界にある一つの職業の一つだ。

 この世界の人間は生まれながらにスキルを持っているため、個々人の所有する武力はかなり高く、職に困る人を道に溢れだした時に起こる反発は元の地球での話よりも遥かに甚大な被害が出来る。

 

 そのため、王侯貴族は冒険者という職種を作ることで人にとって有害な魔物との戦闘に治安維持などの命のリスクの業務を与えると共に金銭も与え、職に困るものを減らすことで民衆から反発が起きぬよう気を使っているのだ。


 冒険者たちが魔物を叩き潰し、冒険者にならないようなならず者が何かをしでかした時は冒険者たちが叩きのめし、冒険者は国家をまたがる巨大な国際機関である冒険者ギルトが管理する。

 このような形でこの世界は治安を維持しているのだ。


「冒険者!!!」

 

 僕の言葉にラリア様が前のめりとなって力強く声を上げる。

 厨二病であるラリア様的には数多の英雄譚に出てくる冒険者という職種に興味が尽きないのだろう。


「ラリア様」

 

 だが、僕はそんなラリア様の好奇心と期待に水を差す。


「まず、大前提を言いますが、冒険者とは夢とロマンあふれる職種ではありません。物語と同じであると思わないでください」


「むっ」


「平民には今日、明日の食べるもの見通しも立たない状態で生きている人が多くいるのです。冒険者は決して輝かしい存在ではなく、貴族たちの手が届かないような荒ら仕事を行う人たちです。あまり、期待は頂かないようしてください。これは一つの教育なのです」

 

 僕はラリア様に向かって期待しすぎないよう釘を刺すのだった。

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