第11話

 中庭で激しくぶつかり合う僕とラリア様。


「せい、やっ、ハァ!!!」

 

 短い手足、されど僕よりも長い手足を使って木刀を振るうラリア様の攻撃をすべて自分の手にある木刀で防ぎながら足を動かす。

 最初は素振りからやろうと思ったのだが、ラリア様の才覚がありすぎて普通に模擬戦していたほうが伸びると理解した僕は初日の初日から互いに剣を交えていた。


「……なる、ほど。ここは、こうしてッ!」


「まだ甘いですよ。工夫が短く、フェイントも足りません」

 

 この模擬戦の中で僕から様々な技術を盗み、工夫し、急激に成長するラリア様を僕は子供扱いしながら軸足へと体重をかける。


「……ッ!?」

 

 素早く軸足を起点として体を捻った僕はラリア様の腹へと鋭い蹴りを一つぶち込む。


「うっ……ぁ、いった」

 

 僕の蹴りを受けて思いっきり吹き飛ばされたラリア様は苦悶に表情を歪め、地面に転がる。


「痛みにも慣れてください」

 

 そんなラリア様に向かって冷たく言い放ち、自分の持つ木刀を手元で転がしながら彼女へと近づいていく。


「……ぐ、ぬ。これが我への試練というのか」

 

 よろめきながらもラリア様は再び立ち上がり、木刀を構える。


「流石です」


「う、むッ!」

 

 自らのダメージなどなかったかのように苛烈に攻め立ててくるラリア様の攻撃を僕は淡々と防いでいく。


「と、遠い……」


 どれだけ剣を振るおうとも崩せない僕を前にラリア様は震えながら言葉を漏らす。


「この程度じゃ崩せませんよ」

 

 どれだけラリア様が剣の天才であり、急激に成長していようとも僕もまた、圧倒的な才覚を持った麒麟児の一人。

 そう簡単に負けるつもりはない。


「……ッ」


「フェイントです」


「え?」

 

 僕の行った体重移動に釣られる形で蹴りへの防御姿勢を取ったことで構えが解け、致命的な隙を晒すラリア様の持つ木刀へと僕は自分の木刀を一振り。

 ラリア様の木刀を叩き折る。


「今日はこのあたりにしておきましょうか。実りはありましたか?」


「う、うむ!もちろんである!我は天才であるゆえにな!」


「流石です。それではまだ午後に、今度は魔法についても触れましょうか」


「おぉー!とうとう魔法であるか!」


「まぁ、本当に基礎の基礎、知っておくべき基礎知識を触れるだけですけど」


「それでも良きである!我が道、深淵、孤高が炎に近づきし時!」


「それでは楽しみに待っていってください。お昼の時間までは僕の出した勉学の課題を行っているように」


「う、うげぇ……勉、学など、闇に住まいし我には関係ないのだ!」


「闇に住まい、光の世界で己が正体を隠すのにも勉学は必要だと思いますよ?」


「むむっ。たしかにそうであるな!うむ、良かろう!では、我が課題しているときもそばにいて、わからないところがあったら教えてくれ!」


「申し訳ありませんが、ラリア様。自分はウェルリンク公爵家の娘であられるマキナ様の教育係も担当しているのです。これよりここでマキナ様の実技の授業を行わければなりませんので、その時間がないのです」


「む、むむっ!?」


「ですが、課題については孤高なるラリア様であれば一人でも問題なく出来るでしょう?」


「ま、まぁ……そうで、あるがぁ」


「それではお願いしますね」

 

 僕はラリア様へと頭を下げ、課題を一人でやるよう促すのであった。

 

 ■■■■■

 

 早朝、ラリア様との訓練を終えて今。

 今度はマキナ様と中庭で向かい合っていた。


「今日は何をしましょうか……」

 

「……剣」


 僕が今日のカリキュラムについて悩んでいると、マキナ様は一単語で自分の希望を述べる。


「珍しいですね。マキナ様が自分から要求するなんて……了解しました。それでは今日は剣をやりましょうか」

 

 僕はマキナ様の言葉に頷き、一度は片付けたラリア様に教える上で使った木刀を再び風魔法で持ってくる。

 僕が折ってしまった木刀も魔法で元通りだ。


「ではやりま」


「我、見参!天才たるこの我が見てやろうではないか!」

 

 木刀をマキナ様へと渡し、始めようと告げたその瞬間。

 ラリア様が部屋の窓をかち割って二階から中庭の方へと落ち、華麗な着地を決める。


「人こわひぃぃぃぃぃいいいいいいいい」

 

 そして、そんなラリア様を見てマキナ様はそのまま体を粉として崩れるのだった。

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