第10話

 しっかりと準備体操を行った後、僕とラリア様は準備体操を終わらせ、別のメニューへと移る。


「準備体操はこのあたりにして別のことをしましょうか」

 

 僕は視線を中庭に生えている一つの木へと送り、魔法を発動。

 木の成長速度を歪に変化させ、一本の巨大な枝をニョキニョキっと生やし、その枝を風魔法で切断し、そのまま風魔法でその枝の姿を木刀のものへと変えていく。


「おぉー!」


「それではどうぞ」


 僕は出来上がった木刀をそのまま風魔法で運んでラリア様へと渡す。


「……む?剣?」

 

 剣を受け取ったラリア様は嫌そうに表情を歪め、不満げに呟く。


「えぇ。そうです。まずはそこからです」


「我は剣などに興味など無い」

 

「はぁー」

 

 僕の言葉に対して一瞬で却下と告げるラリア様に向かって


「貸してください」


「こんなものいくらでもだ!」

 

 ラリア様が僕に向かって投げてきた木刀を僕はつかみ、簡単に構える。


「よっと」

 

 そして、そのまま木刀を地面に向かって一振り。

 

「……ッ!?」

 

 僕の人外レベル……というか、悪魔という人外の肉体でもって振るわれた木刀による一振りは地面に巨大な亀裂を作り出す。


「僕はこのレベルです」

 

 木刀を手元で転がしながら、僕は魔法を発動する。


「深淵を覗くとき、また。深淵もこちらを覗いているのです」

 

 魔法によって作られる黒き炎の龍が僕の周りを渦巻く。


「凡夫であれば魔法を使うのに身体能力などいらないでしょう。されど、深淵を望むのであれば別だ。深淵が深みに、負荷に、打ち勝てる肉体がなければ何も為せぬ。ただ打ち負け、敗北するのだ。深淵に触れ、世界最高の魔法使いである余が断じよう。魔法使いにとって最も大事なのは己が肉体であると」

 

 僕は自分の手にあった


「剣を握れ、……汝はまだ、深淵を覗くに値しない」


「……ッ、と、特別には……身体能力が、必要」


「あぁ。そうである……くくく。その点、汝は運が良い。生まれながらに強い身体の才に恵まれている。深淵にも耐えうるようになるだろう」


「わ、私に……魔法の才覚がッ!」


 なんか純粋な少女を騙しているみたいで心が痛くなる……別に嘘は言っていない。『僕』が魔法を使う上で身体能力が必要なのは明確な事実なのである。

 ただし、僕は悪魔であるという重要なところを話していないだけだ。

 

 この世界の人間は生まれながらに持っている魔力でもってこの世界の法則に干渉し、一時的に理を捻じ曲げることで奇跡を起こす。

 この方法のメリットは発動が簡単であることであり、デメリットは世界の法則が強すぎてあまり干渉出来ず、威力も発動していられる時間も短いことだ。

 

 それに対して悪魔は根本的に魔法の発動方法が異なる。

 悪魔は自身の魔力でもって新しい法則を作り出すのだ。

 自分の体内で編み込んだ法則をこの世界の法則として植え付けるのだ。

 この方法のメリットは一から法則を作って、その法則をこの世界の法則として定着させられるため、魔法の威力も高く、発動していられる時間も自分が解除するまで無限であること。

 そして、デメリットは体内で新しい法則を作るという無茶をしているため、屈強な肉体が必要なことと消費する魔力がとんでもないということだ。

 高い身体能力と豊富な魔力量、これらが必要な悪魔が魔法を使えるようになるのはかなり困難なのだ。


 ちなみに人間と悪魔以外にも魔法を使えるのは魔物と呼ばれる特殊な動物だけ。

 魔物は体内にある魔力をそのまま直で放出してくる。


「や、やるわ!私、剣も!私を強くして頂戴!」


「えぇ。もちろんにございます。私の仕事はラリア様を強くさせることにございますから」

 

 僕は目を輝かせるラリア様に若干の後ろめたさを持ちながらも、彼女の言葉に頷くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る