第9話
ラリア様との初顔合わせから次の日。
僕は早速ラリア様と共にウェルリンク公爵邸の広い中庭へとやってきていた。
「まずはストレッチから始めましょうか」
この世界において準備体操の需要性はあまり浸透されていない。
個々人が戦う前に少しだけ行っているかな?くらいである。
「準備体操……それは如何なる邪法であるか?」
「ふっ。我が叡智の一端。生きとし生けるもの全ての怪我を減らすものですよ。やって損はないですし、一緒にやりましょう」
「ふふふら貴公が叡智、是非とも見せてもらおうでは無いか」
自身のつけている眼帯へと手を当て、不敵な笑みを浮かべるラリア様と共に準備体操を始めるのだった。
■■■■■
天高くにまで登りつつある太陽の下。
僕とラリア様の二人でその他の人よりも早い朝食を食べ、英気を養った朝。
「いち、にー、さん、しー」
「ごー、ろく、しち、はち」
使用人たちが自分たちの朝食の準備を始めた頃合に、僕とラリア様は元気に声を上げて準備体操に勤しんでいた。
「って、なんなのであるか!?これは!全然特別感がないではないか!」
準備体操を進める最中。
ラリア様がその手を止めて不満の声を上げる。
「いや、これは誰もができるものですので。叡智の一端ではありますが、深淵の入り口ではないですよ?」
「我が望むのは深淵である!」
「ふっ。若輩が、いきなり深淵を望むなど傍ら痛いですよ。それはそれとしてラリア様。この準備体操もなかなか良いものではありませんか?体の伸びる感覚が」
「……おっ?おぉ?た、確かにそうであるかもしれぬ」
僕と共に行った準備体操を自分で繰り返すラリア様は僕の言葉に頷く。
「むむ。確かに気持ちいい……気持ちいいぞ!体の伸びる感覚、怪我をするであろうなという感覚が減っていっているぞ!良いではないか!」
怪我をするであろうという感覚を準備体操の段階で認識し、なおかつその準備体操中にその感覚が減ったことまで理解できるなど、一体どんな感覚をしているんだ。
「うむ!気持ちいい、たしかに気持ちいいぞ!これは、実にいい!」
ラリア様は感嘆の声を上げながら楽しそうに準備運動を行う。
「準備体操にはしっかりと体を伸ばし、怪我の防止を防ぐ効果があるのです」
「うむ……なるほどな」
「なかなかいいものでしょう?この準備体操も」
「うむ」
「それでは最後までやってしまいましょうか」
「うむ!よろしく頼むぞ!」
チョロい。
あっさりと不満を撤回し、準備体操を再開したラリア様と共に僕は念入りに体をほぐすのであった。
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