第8話

 ラリア様は僕からの教育を受けるため、ウェルリンク公爵邸へと滞在することになった。

 これからここで暮らすことになる中で自分の部屋がないということはかなり致命的であると言える。

 ゆえに、当然ラリア様にも彼女のための部屋があり、そこで暮らしてもらうことになる。

 

 ラリア様との初顔合わせを終え、明日の簡単なスケジュールを共有し、最後に彼女に与えられた部屋へと案内した後、僕はマキナ様の方へと戻ってきていた。


「ただいま戻りました。マキナ様」


「んっ。何だったの?」

 

「あぁ、少々頼みごとをされましたね」


 部屋に戻ってきた自分へと向けられたマキナ様の疑問の声に僕は答え、ベッドへと腰掛ける彼女のすぐ隣へと僕も腰掛ける。

 一応関係性的には僕が使用人であり、マキナ様が雇い主。

 身分の差まである関係であり、僕も礼儀でもって敬語を使っているが、それでも僕とマキナ様は互いにとって最良の友。

 僕たちの距離感は非常に近かった。


「それは私も聞いて良い、やつ……?」

 

 僕の言葉を聞いたマキナ様が再び疑問の声を上げる。


「えぇ。良いやつですよ。というよりもマキナ様にも関わることですので、説明しなければならないやつです。マキナ様のお父様より頼まれた依頼はローエスタ公爵閣下の次女であられるラリア様の教育にございます。ラリア様が現在、こちらの方に滞在しておられるのでそこまで時間に余裕がなくなるわけではないですが、業務が増えることは確かです」


「えっ?」

 

 僕の言葉を受け、マキナ様の体が石へと変わる。

 言葉通りの意味で、物理的に。


「それでもマキナ様のカリキュラムには問題がないよう努めるつもりです……それにしても突然固まってどうしたんですか?」


「い、い、い、いややややや、な、なんでもないよぉ?」

 

 どう考えても大丈夫ではない様子のマキナ様が僕の言葉に問題ないと返す。


「……それならばいいのですか」


「あ、あっ……ひぇ?おっ」


「それでマキナ様。勉強の方に移りたいと考えているのですが大丈夫ですか?」

 

 困惑の表情をこれ以上ないレベルで露骨に見せているマキナ様へと疑問の声を投げかける。


「ハッ!!!そ、そうだね……ちょっと、待って。まだ勉強道具の準備してないや。今するか待って」


「承知いたしました」

 

 僕はベッドの方からいつもマキナ様と勉学に励んでいるテーブルの方へと移動する。


「んっ。持ってきた、これで出来る」

 

 そんな僕の元にマキナ様も遅れながら続き、僕のすぐ隣に腰掛けてその手に抱えていた教材を机の上に並べていく。


「それでは初めていきましょうか」


「う、うん」

 

 僕とマキナ様は共に勉強を始めるのだった。

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