第6話

 かなりの広さを誇るウェルリンク公爵邸内を歩くことしばらく、僕と文官の男は一つの部屋の扉の前で立ち止まる。

 

「ウォルリンク公爵閣下。ロキ様をお呼びいたしました」


 文官の男はノックした後、声を上げる。


「うむ。入れ」


「失礼します」

 

 国王陛下からの返答をもらった後に文官の男は扉を開ける。


「失礼いたします」

 

 道を開ける文官の男の隣を通って僕は部屋の中へと入る。

 部屋の中には、ウェルリンク公爵家の現当主であり、マキナ様の父親であられるロルリア・ウォルリンク公爵閣下が座って待っていた。


「自分はこれで失礼します」

 

 文官の男は僕が部屋の中へと入ったことを確認した後、自分は中に入らず扉を閉める。

 部屋の中にいるのは僕とウォルリンク公爵閣下の二人だけであった。


「そこに座ってくれ。ロキ君」


「失礼いたします」

 

 僕はウォルリンク公爵閣下に促された席へと腰を下ろす。


「よく来てくれたね」


「ウォルリンク公爵閣下がお呼びとあればいつにでも」


「ありがたいね……それで?うちの娘はどんなところかね?」


「勉学の方は問題ありません。しかとカリキュラム通りに進めております。実技の方も問題はありません。同年代の子に比べても相違ないどころか、大いに進んでいるでしょう」


「素晴らしい……では、コミュニケーションの方は?」


「申し訳ありません。未だ、改善の兆しも見えておらず……」


「いや、君が謝るようなことではないとも。私が、悪いのだからね。君に頼り切りで本当に申し訳ない。私としてはいつでも待つし、無理であったとしても受け入れよう。愛娘にこれ以上負荷をかけさせるつもりはないとも」


「ありがとうございます」


「それで、だ……君に更なる負担をかけることになるが、一つ。お願いしたいのだが、良いだろうか?」


「何でしょう?」

 

「私は君のことを高く評価しているし、君を評価している者はこの国に多い。君が私の家に来てより三年。この三年間の中で君が齎してくれたものは驚異的の一言であり、当時五歳であった君の活躍とは思えぬほどであった」


「お褒めに預かり光栄であります。自分は早咲きでしたので」


「謙遜することはないとも。君はこれからも更に飛躍する……そんな君に重しをつけるわけではないのだが、とある方より君への依頼だ」


 重し、か。

 別に疑うわけでもないが、ここに至るまでの僕の道のりは決して凡庸なものではなかったゆえに、ちょっとした疑いの目を持ってしまうのもまた事実。

 だけどまぁ、僕はウェルリンク公爵家に逆らうつもりはないし、どんな重しであっても受け入れるべきだろう。

 自分の愛したゲームに住まう推しキャラたちの未来を苦難に満ちたものにするつもりはない。


「私と同じ、この国を守る同胞。ローエスタ公爵家が当主よりも依頼である」


「……ローエスタ公爵閣下の?」


「あぁ、そうだ。彼の娘さんの教育を君に任せたいとのことだ」


「……申し訳ありませんが、何故自分に?」


 僕はどこまで行ってもスラム出身でたまたまマキナ様に拾われたことで上流階級ずらしてここに立っている少年に過ぎない。

 教育のスペシャリストでもない僕に何故、教育を頼もうと?」


「その子がなかなかに癖のある子なのだ。本人が才覚は剣士に向いており、その才はトップレベル。剣を極めれば歴史に名を残すことすら容易いレベルなんだそうだ」


「……なるほど」

 

 その言葉でちょっと心当たりが出来たぞ?


「そして、これがまた厄介なのだが、その娘さんはとことん魔法に関しての才覚を持っていないようでね……その子は、うちの子同様に問題を抱える子。だからこそ。君に、うまく頼みたいとのことだよ」


 別に、自分の前ではマキナ様は問題児じゃないのだけど……問題児のスペシャリストというわけではないよ?

 まぁ、断るなんて選択しないけど……身分的な問題もあるし。


「承知いたしました。お受けいたしましょう。一つだけ疑問なのですが、どこを目指せばいいのでしょうか?」


「何でもいいそうだ。貴族として最低限の力さえ身に着けてくれれば」


「なるほど……承知いたしました」

 

 魔法が好きな剣の天才で、ローエスタ公爵家の娘。

 間違いなくあのキャラであろう……ふふっ。あの子であれば問題ないだろう。


「お任せください。うまくやって見せます」

 

 僕はウォルリンク公爵閣下の頼みごとに首を縦に振って同意するのだった。

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