第3話
遥か昔、もはや神話上の物語と言って良い悪魔族の繁栄が時代。
その時代における絶対的な覇者、悪魔族が王族の末裔たる僕の血統はお世辞にも良いとは言えない。
ただの平民として暮らす両親の子供として生を受けた。
「ろ、ロキぃぃぃぃぃぃ、良がッだァァァァァァアアアアアアアアアア!」
そんな僕が良い服を着て、まともなインフラも文化レベルもないこの世界で楽しく暮らせているのはすべて、今。
僕の服に縋りついて涙を流している少女、マキナ様のおかげである。
マキナ・ウォルリンク。
ウォルリンク公爵家の長女であり、豊富な魔力量に加えて神童とも言える剣と魔法の才。
腰まで伸びた長い黄金の髪にサファイアのように輝く蒼い瞳。
黒を基調としたドレスを身に包む彼女の姿は気品に溢れており、公爵家の令嬢に相応しい姿を見せているだろう。
「わ、私……た、助けを呼びにいかないと思ったんだけどぉ、ど、どうしても動け出せなくてぇ、前に出れなくてぇ!うぅ、ごめんよぉ。ごめんよぉ!」
ただし、マキナ様本人の性格を除けば、である。
彼女は究極の内弁慶でコミュ障。
基本的にマキナ様は僕以外の人間とコミュニケーションを取ることが出来ず、声をかけられただけで発狂し、目と目があっただけで発狂し、自分が他人に声をかけるのを想像しただけで発狂する少女である。
コミュ障陰キャを拗らせに拗らせたのがこのマキナ様という少女である。
「いえいえ、自分が下手を打っただけですしね。マキナ様が気になさることではありません」
「うぅ……ごめんよぉ。私の方が年上なのに。二つも上なのに。いつも頼ってばかりでぇ……何も出来ず。うえぇぇぇぇぇ」
「いえ、自分はマキナ様のおかでここにいますから。何も出来ていないとことはございませんよ」
そもそもとして、僕とマキナ様の初めての出会いは自分が三歳の頃にちょっとした失敗をして地面に倒れて気絶していたところ、マキナ様が拾ってくれたという経緯があるのだ。
それ以来、幼馴染として一緒に過ごしてきた僕はウォルリンケ家のおこぼれにあずかる形で裕福な暮らしが出来ているし、唯一の友であるマキナ様と楽しく暮らすことが出来ている。
マキナ様のおかげで今の僕があると言っても過言ではないだろう。
「うぅ……ありがとぉ。私にはもうロキしかいないよぉ」
「はい。自分はいつまでもマキナ様といますからね。僕は決して貴方を見捨てませんよ。ですが、マキナ様もウォルリンク公爵家の娘なのです。ゆっくりで良いですから、僕と一緒に誰かと一緒に話せるように頑張りましょうね」
「う、うん……私、頑張るよ!」
僕の言葉を受け、マキナ様は両手を握って頷く。
「それなら良かった。頑張って」
僕はそんなマキナ様の頭を撫でてあげる。
「ぶえ、げへへへへへ」
「……」
マキナ様、笑い方がなんかもう変態的です。
「それでは、遺跡探索もここら辺で切り上げますか」
僕の我儘で始まったウォルリンク公爵家領内にあった既に調査済みの遺跡の探索。
今回の行動における僕の目的は既に達した。
後はもう帰ってしまっていい。
「そ、そうだね……うん。そうしようか。ロキも大変な目にあっちゃったし、そろそろも戻ろう」
「はい。そうしましょう」
僕の言葉にマキナ様が頷き、彼女は意気揚々と僕の前に立って歩き出す。
「帰ったら二人でお疲れ様会を開こう!」
「えぇ、そうですね」
マキナ様の言葉に頷き、先へ先へと進むマキナ様を追って僕も歩きだした。
「ふぅー」
僕のイレギュラー的な行動の結果。
本来、Rdmで関わることのなかったロキ・クロニクルとマキナ・ウォルリンクの道が交わった。
そんなロキとマキナには一つの共通点がある。
それは共に悪役であるということだ。
マキナはゲームにおけるメインヒロインの一人である貴族と反目する貴族娘の一人であり、かなり大きな事件を引き起こす悪役令嬢なのだ。
僕たち二人は将来、ラスボスに成り得る少年と悪役令嬢に成り得る少女なのだ。
ラスボスと悪役令嬢の二人組。
なんか響きが良いね。
物語なら響きだけで売れそうな感じがする……が、ここは物語の世界ではなく現実の世界なのだ。
ゲームの世界、僕は転生者。
意味の分からない状態ではあるが、それでもこの世界は確かに僕の生きる確かな現実世界だ。
「…マキナ様の闇落ちは防いでみせるよ」
今世において僕が三歳の頃から共に過ごしたことで己の最高の友となり、もはや妹のように思っているマキナ様の闇落ちを防ぐ。
自分の闇落ちフラグはそれほど怖くない今、それが僕の最大の目標となっていた。
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