第3話 プロポーズ
翔太郎はただ蛍を見つめるばかりだった。今、自分が何を言われたのか、思い出そうとしても忘れられないといったような複雑な表情で。
しばしの沈黙の後、ふっと短く笑うと、翔太郎は観念したように重い口を開いた。
「ほんと、はっきり言ってくれましたね。どうしてわかるんですか? 確かに、僕はそうです」
後に続けた言葉は独り言のようにも聞こえた。
「誰にも言ったことはない。第一、訊かれたこともない」
『その男は夢のように美しく、清楚で可憐。そして、きっとゲイであるはず』
「私だからわかるんです」
「やっぱり変な人だ。じゃあ、それがわかっていて、どうして僕に結婚なんか申し込んだりするんですか?」
「ずっと香月さんのような
「そんなこと勝手に決められても困ります。僕は女の人は苦手なんですから」
「大丈夫です。私は本当は男ですから」
「からかってるんですか? あなたはどこからどう見ても女性じゃないですか」
「違うんです! 私は女の姿で生まれて来たのはもう仕方ないとしても、心は男なんです。私の本質は、男を愛する男。つまりホモなんです。わかって下さい。そして、あなたは男に愛されたい男、でしょう?」
「そう、だけど。でも……あなたは女性には変わりない」
「肉体は仮の宿り。いつかは朽ち果てて消える泡沫の衣。表の性別などに惑わされてはいけません。それに……そうだ! 香月さん、親御さんを安心させたいでしょ? なのに息子がゲイだったなんて知ったあかつきには、びっくりして嘆き悲しんで、そりゃもう一族郎党大騒ぎでしょうよ」
「実は、親のことが一番のネックです」
「だったら早いとこ結婚するんですよ。見合いしろだの彼女の一人もいないのかだのうるさく言われる前に。この際、仮面夫婦でも何でもいいじゃないですか。お互いを理解し合える者同士が精神的に結び付けば万々歳ですよ!」
「そんなことで結婚していいんですか? そもそも結婚って、そういうものじゃないでしょう」
「じゃあどういうものですか? 百字以内で簡潔に述べちゃって下さいよ」
「百字以内、ですか」
そこ !? と突っ込みたくなるのを蛍はぐっと
「この際、結婚の定義なんてどうだっていいんです。どうせ結婚なんてのは
「とりあえず、って……居酒屋での最初の注文じゃないんですから」
生ビールか! と突っ込みたくなるのを蛍はぐっと堪えた。
「本当にいいんですか? 僕でも」
「あなただからこそ、いいんです! 私を信じて下さい。きっと、幸せにします」
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