さっそくだけど、その日のうちに
「じゃあこれから、ちょっと王都に行きましょうか」
「王都……え、は? ……え?」
悪戯っぽい顔で急にそんなことを言う母さんに、僕はきょとんとした。
「シャップスもファウンティアも、今夜は
「確認を取った」
「スイくんもノアップたちだけじゃなくて、ユニアやエイデルと仲良くなったみたいだし。いい機会かなって思ったのよね」
「いい機会」
「だから、今からジ・リズに連絡して、来てもらって……。夜になったら行きましょうか」
「夜になったら」
なるほど。
……なるほど?
つまり、日が暮れた後、竜の背に乗って。
王都まで行く。
誰が? ……僕が。
「えっと……いや、その」
いきなりなにを言い出すのかうちの母は。
そんな思いを込めて隣のカレンを見遣った。こんな時にはカレンが頼りだ。この娘なら、素っ頓狂な提案をしてきた
「ヴィオレさま、いい考えだと思う」
そんな感じでは なかった
「ね! カレンはどうする?」
「ん……私は今回は遠慮しておく。たぶん、スイとヴィオレさまだけの方がいい。クィーオーユの私が行くと、面倒ごとが起きるかもしれない」
「ああ……確かに、
「ん。ファウンティアさまたちによろしく言っておいて」
「わう! わうわうっ!」
「あら、ショコラも行きたいの?」
「わんっ」
「わかったわ。あなたはスイくんのお兄ちゃんだものね」
「わふっ!」
僕がぽかんとしている間にも、進んでいる。
話が進んでいる。
カレンどころかショコラまで混ざって、話が、進んでいる!
どうも母さんやカレンの口振りから察するに、王家の人たち——王さまや王妃さまと僕を会わせたいようだ。いや、それ自体は別にいいよ? 僕だって、父さんの子爵位を正式に継がせてもらったことのお礼を直接言いたいという気持ちはあるし。
でもですね。
だからといって、それが今からで。
おまけにジ・リズに乗って行くとか。
「ジ・リズ……そうだ、ジ・リズだ! さすがに王都は遠いし、ましてや里からだよ? 迷惑じゃない?」
「大丈夫よ。雨季になったら
「いやお礼をすればいいという話ではなく、気持ち的な……」
「この前、王都に乗りつけた時、愉快だったそうよ。もう一回くらいやってもいいって言ってたから、今日がそのもう一回ってことでいいんじゃないかしら?」
「この線は無理か……というか、ついさっきユニさんたちを見送ったばかりだよ? ユニさんたちが王都へ旅してるのに、それを追い越して先に王さまたちに会っちゃうの? 変じゃない?」
「帰ってきたら両親はもうスイくんと対面してたって、面白いじゃない。呆れ顔が目に浮かぶようだわ」
「もう完全にノリノリだよこの人!」
さっき
——仕方ない。
僕は盛大に溜息を吐きつつ、母さんへと向き直り、問うた。
「王都までって、竜の翼でどのくらいかかるの?」
「そうね、この前の感じからすると……うちの家からシデラまでとそんなに変わらないかしら。いえ、あの時は急いでて、速度を目一杯上げてもらったから……」
「さすがに今晩中には帰ってこられるってことでいいんだよね?」
「ええ、そんなに長く滞在するつもりもないわ。王都といっても王宮に行くだけよ。スイくんも、観光したいならまたの機会にゆっくりな方がいいでしょうし」
「そうだね。……そう考えると、悪くない案かもしれない」
確かにこの先もし、観光なりで王都へ旅行する時が来るとして、家族みんなでとなると、国王陛下夫妻にゆっくりお会いするのは難しいのかなと思った。僕は子爵だし、正式に赴くとどうしても『貴族が王に謁見』という形になる。周囲の目もあって自由が効かないだろう。
だったら母さんと僕のふたりだけで、『
「わかったよ。じゃあ、今日、行こう」
僕は苦笑しつつ、母さんにそう返す。
そして母さんは僕に「ありがとう」と笑うのだった。
※※※
ノアの屋敷でお茶を飲んでまったりし、日が傾き始めてから宿に戻った。
ご飯を作り、食べ、家族水入らずでのんびりし、やがて太陽が沈んだ頃——ジ・リズが到着する。
「おう、今回は『天鈴』殿とスイのふたりと聞いたが」
「わうっ!」
「そうか、ショコラもか」
宿の庭に降り立ったジ・リズは、
「ごめん、遠くまでご足労を……いや、ご
「うむ、気にするな。報酬は弾んでくれるようだし、夜間飛行もなかなかいいものだぞ」
「そういえばあんまりないよね、夜に飛んでもらうの」
空を見上げる。
暮れたばかり、まだ西の端は
ジ・リズの背に乗り込んだ僕らに、家族が見送りの挨拶をくれる。
「おかさん、すい、しょこら、いてらっさい!」
「ん、気を付けて」
「両陛下には私からもよろしくお伝えしてくださいな」
「きゅるるっ……?」
手を振るミント。
頷くカレン。
おばあさまは微笑み、ポチは怪訝に首を傾げる。
「じゃあ、行ってきます」
竜の翼がはためき、けれど風はなく垂直に、魔力による浮遊。
そうして家族に見送られながら——僕らは、王都へと出発した。
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