インタールード - 王都ソルクス城:謁見の間
「ええ、貴公の
もはや定型句となった王妃ファウンティアの言葉に、微かな疲労がある。
玉座に腰掛けた国王シャップスの表情にはなんの色も浮かんでおらず、だがそれは威厳ではなく圧倒的な
深く一礼して去っていく魔導士は、王都において高名な『賢者』の称号持ち。とはいえ、彼の願いが叶う日はおそらく来ないだろう。
——ソルクス王国、王都。
王城にある謁見の間で、国王と王妃、そして宰相は、揃って薄い溜息を
「本日の分は以上です。……明日は三件入っていますが」
若き宰相エイデルの報告もまた、王と王妃と同様にげんなりしていた。
「
「かと言って、頼ってくる忠臣を無下にするわけにもいきません」
「私としてはそろそろ、お触れを出したいものですが」
「戯れを。それは
「ですよね……」
彼らの愚痴は、ここ数日続く魔導士たちの請願についてのものだ。
即ち——スイ=ハタノとの面会の場を設けてもらえないか、という。
『
ここまではよい。
注目するのは商いに目敏いものが主であったし、本人と接触せずとも、シデラ村と王家が窓口となればそれで済む話だったからだ。
ただ、この冬から春にかけて彼がしでかしたものはそうもいかなかった。
『
そして、
これまでとは
無論、どちらもまだ機密情報だ。シデラの現地民には周知となる前者はともかく、後者に至っては大陸国家でもまだ上層部しか知らされていない。だが人の口に戸を立てられぬのは世の常で、請願に来る魔導士たちもまた、国家の
それぞれ独自の
とはいえ、である。
たとえ一流の宮廷魔導士であろうとも——会わせてくれと王に懇願してくる時点で、彼らは超一流に足りない。
エイデルは義父母と三人きりなのをいいことに、小さく愚痴を吐く。
「……そんなに会いたいのなら、職務を辞してその足でシデラに
「我が国に忠義を尽くしてくれる者たちをそのように言うものではありませんよ」
「ただやはり……王都に篭ったままで己の望みを叶えようと考えていること自体、甘さの証左なのでしょうね。請願に来るのはほとんどが『
魔導士として称号を得るのはそれだけでたいへんな栄誉だ。
最下級の『
故に、と言うべきか。いかに魔術に傾倒し魔導を追究しようとも、『
対して、最上級の称号である『魔女』を戴く者は、他と隔絶している。
『魔女』へ到達するほどの者は、何者にも媚びない。権力や財に
人生の大半を王国への忠義に捧げてくれたかの『零下の魔女』——セーラリンデ=ミュカレでさえ、宮廷魔導士の地位などなんとも思ってはいまい。彼女は単に、愛した人がたまさか王族であったから仕えてくれているだけなのだ。
王立魔導院の長でありながら冒険者活動に身を投じ、姪のためにあっさりと職を辞して彼女の部下となったりもする。そして現在は、身ひとつで辺境へ赴いている。侯爵家の当主として見れば考えられないほどに、その行動は異常であった。
「実際、ノアップ殿下の
エイデルが肩をすくめ、ファウンティアは眉根を寄せた。
「そうですね。我が国では……『
「ヴィオレ殿が怒らないといいなあ……あのふたり、仲は悪くないけど相性が悪い」
そしてシャップスが、心配げに嘆息する。
「あの方がご子息を大切になさっておられるのは、余らと同じだ。ただ余らと違うのは、王家というしがらみがないことと、容赦がないこと。たとえ学術目的だろうと、興味本位でスイ殿に近付かれたらどうなることか」
「まあ、そこは大丈夫でしょう」
そんな夫の懸念に、王妃は薄く笑って首を振る。
「仮にシデラ村まで赴いた者がいたとしても、『零下』さまが待っています。ましてや森の中へ入っていける者など『魔女』の中でもひと握り。『静嵐』さまは魔導の探究にかけては世界でも有数ですが、
「……では、実力の足りぬ者が王家へ請願に来ているうちはよしと考えましょう。『天鈴』殿には、『鹿撃ち』を許し、乞うて我が国にいてもらっているのです。王家が防波堤となるくらいは、必要経費というものですよ。よいですかな、両陛下」
宰相のお小言は、
故に、王も王妃も、苦笑いで頷く。
——なんにせよ。
調味料を発明されたり、王都の名物料理を開発されたり、いつの間にか『虚の森』の守護者みたいになっていたり、挙げ句の果てには
王家が泥をかぶるくらいは構わないから、頑張ろう。
そんなふうに、彼らは決意を新たにした。
そんな気持ちで、彼らはハタノ家の手伝いをしようと思った。
※※※
ちなみに。
シデラにいる第三王子の
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